胡蝶
自と他重さの抜ける
瞼の降りる
手の開き出す
息が薄まる
肩の落ち出す
暗さの来れる
縁の溶け出す
床が離れる
軽さだけ在る
身が離れ出す
上下の消える
何処へも向かず
風に乗り出す
翅が広がる
光に透ける
力の要らず
粉の零れる
花に降り出す
蜜に触れ出す
陽の差し掛かる
薄さの光る
風で揺られる
色が移れる
止まりの無くて
目の開き出す
重さの掛かる
翅の消えない
軽さが残る
風に乗り出す
翅が広がる
光に透ける
力の要らず
覚めの来ている
粉がまだ在る
腕の広がる
翅がまだ居る
温みが一つ
軽さが一つ
どちらも此処に
継ぎ目の無くて
風に乗り出す
翅が広がる
光に透ける
浮いたまま在る
編注 ── この曲について
寓話はこうです。荘周は夢の中で蝶になった。ひらひらと舞い、自分が荘周であることを忘れていた。ふと覚めると、まぎれもなく荘周である。さて、荘周が夢で蝶になったのか、蝶がいま夢で荘周になっているのか。これを物化という——胡蝶の夢(斉物論篇)。
曲は、入眠の物理から始まります。重さが抜け、瞼が降り、床が離れる。サビで飛行に入り——「力の要らず」。Verse 2 は蝶の感覚世界です。鱗粉、蜜、翅の薄さが光る。そして覚醒。「翅の消えない/軽さが残る」。覚めたのに、翅がまだある。
Bridge がこの曲の解き方です。「温みが一つ/軽さが一つ/どちらも此処に/継ぎ目の無くて」。原典は「どちらが夢か」と問いました。この曲はその問いを、問わずに解いています。人の温みと蝶の軽さが、継ぎ目なくここにある。どちらかに決める必要が、そもそもない。
対の連作との対応。「在と間」の「浮遊」も無重力の曲でした。ただしあちらでは、浮くことは世界の手応えの喪失——何にも届かない病。ここでは、力の要らない飛行——自由。そして最終行「浮いたまま在る」は、「落下」の「もう浮かばない」の正確な反転です。同じ浮力が、あちらでは失われ、こちらでは足りている。
