lowlights

RES_  RES_ 連作アルバム 第三集

普通の音になるまで

十四曲と、外に一曲。

数えるのは、新しいうちだけ。

十一十二十三十四И

正の字

何年も探していた本が、四月の最初の日曜に見つかる。底に残った一口を、確認しなくてよくなる。名前を差し出して、十回数える。

枝豆の皿が黙って寄せられ、焼きおにぎりは六つ来る。数に入れてもらう、ということ。

十四曲。最後の一枚だけ、夜。

日曜

五冊目

美月

[Verse 1]

木曜に来た なかった
棚の並びが変わってた
右の奥 指が背表紙を辿る
読んでない 触ってる
先週もなかった
先々週もなかった
何年もない
来週も来る

[Verse 2]

狭い店 二人で入ると肩がぶつかる
あんたはそっち ロシア文学こっち
三分 四分
ない
振り返った
残念じゃなかった
来週も来る

[Chorus]

見つかったらその日もう終わり
一日中眺めてるって決めてた
何年も言ってた
何年もなかった
来週も来る
来週も来る

[Verse 3]

四月の最初の日曜
今日ある気がするって言われた
根拠ないでしょって返した
根拠ないって笑ってた
狭い店 肩がぶつかる
右の奥
指が背表紙を辿ってる
止まった

[Chorus 2]

あるって言った
声が変だった
震えてない 止まってる
何年も探してた人の声
抜き出した 両手で
重くない 薄い 古い
表紙が少し焼けてる
開かない 持ってるだけ

[Bridge]

涙が一個落ちた
拭わなかった
外じゃないから風が乾かさない
落ちたまま
根拠ないのに
四月だからって
それ根拠って言わないよ
でも合ってた

[Last Chorus]

一日中眺めてるって言ってた
嘘だった
歩いてる あんたの隣で
本を抱えたまま
一人だったら座り込んでた
どこかのベンチで
開けないまま一日中
でも歩いてる

[Outro]

明日 一人で開ける
一ページ目
今日は触るだけ
棚に入れた
ドストエフスキーとチェーホフの隣
何年も空いてた場所に
来週も来るって
もう言わなくていい
ここにある

STYLE
Japanese female vocal, sung in Japanese only, Japanese indie pop / acoustic pop,
acoustic guitar fingerpicking, warm piano underneath, light brushed drums enter chorus only,
warm round bass, close mic, not performing — quietly discovering something while walking,
voice steady until verse 3 — not breaking, just holding still,
not triumphant — privately full, not dramatic — a small moment with enormous weight,
not crying — standing still with something held in both hands,
acoustic guitar at human walking pace, piano sparse in verse, fuller in chorus,
bridge stripped to voice and piano only, last chorus guitar returns,
no strings, no synth, no reverb, dry and close, space between instruments,
BPM 72, Key Dm

底に残ってた

美月

[Verse 1]

全部飲んだって顔してた
カップをテーブルに置いた
おやすみって帰った
次の日 洗おうとして
持ち上げた 少しだけ重かった
底に一口ぶん

[Verse 2]

わざと?
って聞かなかった
聞いたら答えが来るから
答えが来ると決まるから
洗わなかった その日は
明日洗うって置いた
一口ぶんのまま 一晩

[Chorus]

残ってた
全部飲んだって顔してたのに
残ってた
わざとじゃないって言うと思う
たぶんって付くと思う
あんたの「たぶん」信用してない
でもそのまま置いといた

[Verse 3]

次の週
今日は全部飲んだって言った
底 見ていいよって
見なくてもわかってた
空なの知ってた
持ち上げた 軽かった
空だった
知ってた 確認した

[Chorus 2]

残ってなかった
全部飲んだって言った通り
残ってなかった
見なくてよかった
見なくても知ってた
でも確認した
知ってたのに確認した

[Bridge]

残ってたあの一口が
何だったのか聞いてない
飲み忘れたのか
残したかったのか
わざとじゃないのか
わざとだったのか
どっちでもいい
気づいたの私だから

[Last Chorus]

麦茶を出した 最後の一杯
グラスが二つ 空になった
確認しなかった
今日は
持ち上げなかった
知ってるから
全部飲んだ人だって
知ってるから

[Outro]

底に何もない
それだけのことを
何回も確認してた
もう確認しなくていい
全部飲んだ人がいる
ここに

STYLE
Japanese female vocal, sung in Japanese only, Japanese indie acoustic pop,
piano only in verse — single notes with space, not filling silence,
bass enters chorus only, light and low, nearly absent,
no drums, no guitar, no strings, no synth,
close mic, not performing — noticing something small and holding it,
voice flat and steady throughout, does not rise, does not break,
the weight of lifting a cup — that small,
not sad — attentive, not romantic — private,
bridge voice alone, no accompaniment,
last chorus piano returns but lighter than verse,
outro voice nearly alone, piano one note only,
no reverb, dry and close, space between everything,
BPM 62, Key Am

日曜の分

美月

[Verse 1]

ノックが二回
それから名前
鍵は開けてあるのに
毎回ノックする人

豆の袋が置かれる
今日のやつ
浅いのか深いのか
袋の顔でわかる

[Verse 2]

ケトルに水
ミルの音
一杯目は細く
二杯目は少し太くなる

太くなるの、知ってる
毎回なる
直さない
直さないのも毎回

[Chorus]

今日の分、って渡される
朝の分
昼の分
夜が来る前の分

分、で区切って
配られてきた
何十回目かの日曜
数えてない もう

[Verse 3]

取っ手の向きを揃える
手が勝手にやる
考えたのは最初の頃だけ
今は手の仕事

窓の外を二人で見る
何かある日もある
何もない日もある
今日は何もない日

[Verse 4]

話すことがない時間がある
毎週ある
埋めない
埋めなくていいのも毎週

時計の音
日曜だから聞こえる音
この音を聞いてるとき
たぶん二人とも聞いてる

[Bridge]

特別な日曜が
いくつかあった
名前のついた日曜
数えられる日曜

でも本体はこっち
数えてないほう
何も起きなかった日曜が
いちばん多くて
いちばん重い

積んだ本みたいに
一冊ずつは薄い
重いのは
冊数のほう

[Last Chorus]

今日の分、飲んだ
夜の分はこれから
帰る時間が来て
着いた?って送る

着いてないでしょ、って返す
毎回早い
毎回言う
毎回のやつ、全部やった

[Outro]

来週も来る
来週も淹れる
来週も二杯目は太くなる
直さない

日曜が来る
分が配られる
それだけの話
それだけの話が、続く

STYLE
Japanese female vocal, sung in Japanese only, Warm plain Japanese indie pop, a Sunday that repeats, Vocal: female, close mic, even and unhurried, listing a routine with quiet fondness, never dramatic, Guitar: acoustic strumming, simple loop, the same pattern every verse — repetition is the point, Piano: small fills, domestic, Bass: round, steady, Drums: brushed, light, a kettle-and-grinder pace, No builds — the same temperature start to end, the weight is in the accumulation, Bridge: barely softer, the uncounted Sundays, Outro: settles, continues rather than ends, do not loop, do not repeat
BPM 88, Key G major

三十秒

美月

[Verse 1]

卵を割った 二つ
箸で軽くだけ 混ぜすぎない
鍋に流した 蓋をした
火を止めた
三十秒
数えてない
喉が知ってる 頃合いを

[Verse 2]

蓋を開けた 半熟
ちょうどよかった
どんぶりに乗せた 二人ぶん
渡した
食べてた 黙って
おいしいとも言わなかった
おいしい顔はしてた
れんげの音だけ聞こえてた

[Chorus]

三十秒って言わなかった
食べてるとき
ぴったりだって知ってたのに
三十秒って
あとから言った
食べ終わってから
溜めて あとから出す人

[Verse 3]

言うと思った
って笑った
数えてないよって返した
喉が知ってるだけって
あんたもそうだよって言った
溜めて あとから出すの
瀬川の三十秒と
私の三十秒
同じ場所にあったよって
言ってから気づいた
同じことしてた

[Chorus 2]

食べてるとき言わなかった
私も
ちょうどよかったって思ってた
二人ぶんの半熟が
でも言わなかった
あんたが食べてるの見てた
頬杖ついて
れんげの音を数えてた

[Bridge]

翻訳も同じ
喉で知って あとから言葉が来る
三十秒は測れない
体温みたいなもので
あんたの曲もそうでしょ
弦に指が乗って まだ弾いてない
鳴る前にもう聴こえてる
三十秒の手前に全部ある

[Last Chorus]

三十秒
数えたら間に合わない
数えないからちょうどいい
喉が知ってる 指が知ってる
あんたが黙って食べてたのも
食べ終わってから言ったのも
全部 三十秒の中にあった
溜めて あとから来るやつ

[Outro]

卵焼きの層が見えた
一枚目 二枚目 三枚目 四枚目
きれいに巻けた日だった
おいしかったって
三十秒あとに来た
ちょうどよかった

STYLE
Japanese female vocal, sung in Japanese only, Japanese indie pop / acoustic pop,
piano and acoustic guitar together — piano is hers, guitar is his, both present from the start,
warm bass underneath, light brushed drums, nearly absent — only the sound of a quiet kitchen,
close mic, not performing — remembering something while washing dishes,
voice warm and unhurried, slightly amused in verse, still in chorus,
not romantic — domestic, not dramatic — just right,
bridge voice more intimate, the moment she realizes they do the same thing,
last chorus voice settles, the knowing is complete,
outro piano only, one note at a time, warm,
no reverb, dry and close, space between instruments,
breathing with vocal, the sound of a kitchen after eating,
BPM 70, Key G major

三回

瀬川

[Verse 1]

鏡の前で言ってみた
一回目
鏡の中の顔が
先に無理って顔してた

十秒でやめた
下手すぎて
鏡に謝った
謝る相手、違うだろ

[Verse 2]

信号待ちで言ってみた
二回目
声に出した瞬間
ハンドル握る手が汗かいた

青になった
発進した
続きは言わなかった
運転に集中した、ってことにした

[Chorus]

三回練習した
三回ともやめた
本番でちゃんと言えたかって
言えてない たぶん

でも言った
下手なまま言った
下手じゃないよって返ってきた
……練習、何だったんだ

[Verse 3]

電車の中で言ってみた
三回目
頭の中で 声出さないで
それも途中でやめた

誰にも聞こえてないのに
隣の人に見られてる気がした
頭の中なのに
ばれるわけないのに

[Verse 4]

着いてから
スマホ二回出した
時間二回見た
時間は知ってた

窓まで一歩歩いて
戻ってきた
行く場所なんてなかった
最初からなかった

[Chorus 2]

三回練習した
三回とも途中でやめた
四回目は本番だった
途中でやめられなかった

言った
立ったまま言った
座って言う余裕なかった
……かっこ悪いな 俺

[Bridge]

練習の結果じゃないだろ
受け取り方の結果だろ
知ってる
理屈が合ってないのは知ってる

でも
下手じゃないよって言う人がいて
その人の前で言うって決めてたから
練習できたんだと思う

だから合ってる
合ってないけど 合ってる

[Last Chorus]

練習、意味なかった
結局ちゃんと言えなかった
でも
しといてよかった

三回分の下手を
全部知ってから言えた
下手なの知ってて言えた
それが練習の意味だった たぶん

[Outro]

言えないこと
まだある たぶん
その時もまた
鏡の前でやると思う

また下手だと思う
また途中でやめると思う
でも言うと思う
四回目で

STYLE
Japanese male vocal, sung in Japanese only, Warm Japanese indie pop, light and self-deprecating, a confession-practice song with a soft heart, acoustic-led band, Vocal: male, close mic, conversational, wry and slightly embarrassed, muttered asides, a plain honest drop in the bridge, Guitar: warm acoustic strums, light clean electric, Bass: round, easy, Drums: light kit, relaxed drive, Choruses open modestly, more sigh than triumph, Bridge: quiet, talky, sincere, Outro: soft, amused, thins with a small resolve, Not cool — and fine with it, do not loop, do not repeat
BPM 96, Key C major

客席

六つ

美月

[Verse 1]

麦茶ありますかって言った
メニュー見ないで
隣から同じ声がした
麦茶
同じグラス 同じ量 氷なし
並んで置かれた

[Verse 2]

ポテトサラダが来た
小皿に分けてる 一番喋る人が
六つに分けてる
最後に自分のぶん 一番少ない

[Chorus]

五つじゃなかった
最初から六つだった
数えてくれてた
入る前から

[Verse 3]

だし巻きが来た
端を切って 隣の皿に置いた
何も言わないで
箸だけ
鮎が来た
背骨に沿って開いた
半身を置いた
返ってきた もう半匹

[Verse 4]

枝豆の皿が少しだけ寄せられた
何も言わないで
静かなほうの人が寄せた
唐揚げおいしいですよって
目が泳いでた人が言った
おいしかった うなずいた
口の中にあったから

[Chorus 2]

焼きおにぎり六つって聞こえた
六つ
五人のテーブルに六つ
最初からそうだった

[Bridge]

最後の一個が残ってた
六人で止まってた
半分こすればって
一番喋る人が笑った
割った 半分を置いた
何も言わないで
何回目かわからない
数えてない

[Last Chorus]

六つ追加って聞こえた
また六つ
もう数えてくれてる
ここにいていい
皿が散らばってる
骨と殻と醤油の跡
きれいじゃない
ちょうどいい

[Outro]

もう一個頼んでいいですかって聞いた
六つって声がした
ここにいる
もう少しだけ

STYLE
Japanese female vocal, female singer, sung in Japanese only, warm minimal Japanese indie pop, a table with too many plates, piano — single notes placed like dishes arriving one at a time, acoustic guitar fingerpicking — gentle, the sound of chopsticks and small plates, bass round and low — enters verse 3, the table getting full, brushed drums — enter chorus only, light, close mic, voice quiet and observational, not singing — sitting at the end of a table noticing that someone counted her, flat but warming, verse voice reports — plates arriving, chorus the voice opens slightly — she realized the number was six not five, bridge voice smallest — the last rice ball is being split, final chorus voice warm — she belongs here, outro quietest — she asks for one more, no electric guitar, no synth, no strings, warm and cluttered like a good izakaya table, BPM 74, Key F major

同じ顔

美月

[Verse 1]

杏のタルトにフォークを入れた
崩れなかった
一口目 酸っぱい おいしい
二口目 酸っぱい おいしい
三口とも同じ顔してたって
言われた
知らなかった

[Verse 2]

何千ページも読んできた
構文が崩れたら見つけた
作者が逃げたら追いかけた
喉で全部知ってきた
自分の顔だけ読めなかった
三十三年

[Chorus]

喉で知るって言ったら
わかるもんって返ってきた
変な顔されなかった
初めてだった
楽器が違うだけだった
喉を通す人が目の前にいた
同じことをしてた
違うやり方で

[Verse 3]

声が硬いの気づかれてた
場所を決めてない声だって
押されなかった
待たれてた
氷が溶けてるの見てた
手が止まってるの見てた
見てたのがばれてた
お互い見てた

[Verse 4]

深い話をした
喉のこと 消えること
帰る場所のこと
ずっと一人だったこと
ケーキの話で戻してくれた
深いところから
タルトの顔の話に
半分計算で半分癖だって
百点にならないやつだって
笑ってた

[Chorus 2]

深い話ができる人と
軽い話ができる人と
大体どっちかだった
両方いける人が目の前にいた
喉で知るって言ったら
わかるもんって返ってきた
変な顔されなかった
それだけで全部楽になった

[Bridge]

もったいないからって言われた
自分の顔がわからないの
もったいなかったのか
三十三年知らなかった
今後も報告するって
同じ顔してたら教えてくれるって
自分で読めないものを
読んでくれる人がいた

[Last Chorus]

楽器が違うだけだった
喉を通して 息を混ぜて 出す
同じことをしてた
ずっと 違う場所で
今日初めて隣にいた
タルトとチーズケーキで
ホットのカフェラテが二つ並んで
同じ湯気が立ってた

[Outro]

帰りの電車で目を閉じた
笑い方を六つ覚えてる
名前はつけない
帰ったらコーヒーを淹れる
深煎り ホットで
今日はカフェラテにしたから
家では自分のやつを飲む
いい午後だった

STYLE
Japanese female vocal, female singer, sung in Japanese only, warm Japanese indie pop, afternoon cafe, piano — warm chords not single notes, for the first time in her songs the piano plays chords, someone is sitting across from her, acoustic guitar fingerpicking — gentle and present, the other person's instrument, bass round — enters chorus, the realization that they do the same thing, brushed drums — light, an easy afternoon, close mic, voice quiet but not flat — warmer than her other songs, not singing — describing an afternoon where she was seen for the first time, verse observational — tart and forks, chorus voice opens — she found someone who understands, bridge voice honest — thirty-three years, outro voice settled — good coffee good afternoon, no electric guitar, no synth, no strings, warm and clear, slight cafe warmth, not intimate — parallel, not bonding — recognizing, BPM 76, Key Bb major

リネンの黒

美月

[Verse 1]

前の日の夜に選んだ
素材だけ変えた 色は変えない
黒しか持ってないから
リネン
五月だから

[Verse 2]

楽屋口で会った
同じだった
リネンの黒 リネンの黒
別々の夜に別々のクローゼットの前で
同じものを選んでた
一秒だけ二人で黙った
先に笑ったのは私

[Chorus]

被ってるじゃん
って言われた
一番喋る人に
言われたくなかった人に言われた
知ってた こうなるって
知ってて着てきた
知ってて着てきたのに
言われると癪

[Verse 3]

静かなほうは何も言わなかった
ギターの人の目が泳いだ
声の人が笑った
どの笑いかわからなかった

[Verse 4]

声の人が来た
「いい生地」って
私の袖に触った
指が沈んだ
あの人を見た
なんでもない顔してた

[Chorus 2]

別にいいって言った
今回は嘘じゃない
別々の夜に同じもの選ぶ人が
隣にいる
組み合わせ考えなくていいから黒って
同じこと思ってた
被るわけだよ

[Bridge]

帰り道
二人で歩いてる
同じリネンの黒が並んで歩いてる
五月の夜
風が同じように通り抜けてる
同じ織りの隙間を
制服じゃない
揃えたんじゃない
合わせたんじゃない
別々に選んで同じだった
それだけ

[Last Chorus]

ペアルックじゃんって
帰りにも言われた
一番喋る人に
わかってたよ
別にいいけどね今回は
次は——
次もたぶん被る
被らないようにするつもりがない

[Outro]

同じ黒
同じリネン
同じ風の通し方
別にいいよ
何回でも被る

STYLE
Japanese female vocal, female singer, sung in Japanese only, cool Japanese indie pop, May night walk, piano — light chords, relaxed, she does not mind, acoustic guitar fingerpicking — the other person walking beside her, bass round — easy walking pace, light drums kick and hi-hat — evening stroll, close mic, voice flat but amused, not singing — telling a story about wearing the same outfit and pretending to be annoyed, verse matter-of-fact — she chose it last night, chorus the voice has an edge — she was told they match by the loudest person, bridge the voice settles — two black linens walking, wind through the same weave, outro voice smallest and warmest — she will match again, no electric guitar, no synth, no strings, cool and breezy, BPM 82, Key Eb major

いたね

美月

[Verse 1]

路地に出た
上を見た
いた
ビルとビルの間
細い空
半月くらい
遠い
同じ場所にいる

[Verse 2]

いたねって言った
独り言みたいに
聞こえたかどうかの音量で
聞こえてたと思う
この人には聞こえる
見なくてもいるのは知ってる
見たかったから見た

[Chorus]

さっきまでステージにいた
照明の白と音の塊の中にいた
出てきたら夜だった
暗かった
暗いのに見えるものがあった
最初からいた
最初からあの場所にいた
目が慣れてた

[Verse 3]

あの人は上を見なかった
隣にいたのに
見なくていいって顔してた
いるのは知ってるって顔
見なくても知ってるのは
同じだった
私は見た
見たかったから

[Verse 4]

車に乗った
窓を少しだけ開けた
五月の夜の風
三月より温い
三月にも窓を開けた
あの夜は寒かった
今日は温い
季節が変わってる

[Chorus 2]

帰り道
月は見なくていい
いるのは知ってる
見なくても知ってる
遠いから
どこに走っても
見える場所にいる
変わらない
でも見るかもしれない
見たいから
見たいだけ

[Bridge]

あの曲が鳴った
ステージの上で
暗順応のあとでが鳴った
暗がりに目が慣れてやっと見つけた
最初から出ていた光
遠いからどこに走っても見えていた
歌が終わって
外に出て
上を見たら
本当にいた

[Last Chorus]

曲の中の月と
路地の上の月が
同じだった
歌で聴いたものが
目の前にあった
作り話じゃなかった
本当にいた

[Outro]

部屋に帰った
電気をつけなかった
暗い部屋に立ってる
窓の外
月があった
さっきより少し高くなってる
着いた?って送った
今日は私が先だった
うんって返ってきた
月がいた
最初から

STYLE
Japanese female vocal, female singer, sung in Japanese only, minimal piano, May night alley then car then room, piano — single notes with slight alley reverb at first then car interior then dry room, the piano travels with her, one note per image — moon building gap wind, cello — one sustained note in bridge only, the song she just heard played back as one note, no bass, no drums, no guitar, no synth, close mic, voice quiet, not singing — looking up in an alley and finding something that was always there, verse almost whispered — she said itane to no one, chorus voice opens — she came out of the show and the dark was readable, bridge voice still — the song and the moon were the same thing, outro voice quietest — she is home and the moon followed, dry by the end — alley reverb fades as she goes inside, not poetic — reportorial, not moved — confirmed, BPM 66, Key Dm

名前

せーの

美月

[Verse 1]

目、開けていい?って聞いた
どっちもいいって返ってきた
どっちもって何
選んでよそこは

開けても閉じててもいいって
言い直した 意味同じ
言い直すの好きだね
今日二回目

[Verse 2]

開けたら目、合わせていい?って
許可取ってきた 私に
普段そんなこと聞かないくせに
今日は聞く日らしい

いいよって言う前に
準備できてる?って聞き返した
たぶん、って言った
できてない、かも、って言い直した

[Chorus]

せーの、で開けようって
小学生かよ
笑った でも乗った
せーの、って言って、って返した

せーの
先に開けてた 私
ずるいって言われた
ごめん 先に見たかった

[Verse 3]

まつ毛、長いの知ってた
閉じてるとこ初めて見た
開くの待ってる三秒
長かった いい三秒だった

開いた瞬間の顔
固まってた 一瞬
先に開けてたのバレて
ずるい、って 二回目

[Chorus 2]

せーの、の意味なかったじゃん
半分なかった ほんとは全部
でもいいって顔してた
いいと思う 私も

せーの
言ったのそっちで
破ったのこっち
ちょうどいいでしょ それで

[Bridge]

見えてる、って言った
見えてるよ そりゃ
言う必要ないのに言った
言えたのが よかった

逸らさないために見てたやつと
見たくて見てるやつ
違うんだって 今日知った
二個目のほうが 近い

[Last Chorus]

せーの、でいくよ次も
たぶん私また先に開ける
ずるいって言われる
言われるのも込みで 開ける

せーの
何回でもやろう
何回でも破るから
何回でも ずるいって言って

[Outro]

先に見たかった
それだけ
これからも たぶん
先に見る

STYLE
Japanese female vocal, sung in Japanese only, Light warm Japanese pop, playful and intimate, a small game between two people, morning-bright, Vocal: female, close mic, playful teasing delivery, giggling at the edges, tender on the quiet lines, never saccharine, Piano: bright light chords, Guitar: soft clean strums, Bass: round bouncy, gentle, Drums: light, crisp, small bounce, Choruses lift lightly, the se-no as a soft hook, Bridge: slows warm and close, half-spoken, Last chorus playful and open, Outro: quiet, a smiling secret, ends softly, do not loop, do not repeat
BPM 92, Key D major
十一

呼んでほしいとか、そういうつもりじゃ

瀬川

[Verse 1]

何年も苗字で呼ばれてきた
それでよかった
苗字も、もう
その人の音になってた

今日、変えたくなった
理由は説明できる気がする
しない
説明すると嘘が混ざる

[Verse 2]

首の後ろに手をやってた
癖が先に出てた
目を逸らして
戻して

りく、でいいよ

言った
言ってから
足した

[Chorus]

呼んでほしいとか
そういうつもりじゃ
——って言った
言い訳が先に立ってた

差し出しといて
受け取り方まで
指定しないみたいな顔
してた たぶん

[Verse 3]

一回目を聞いた
息を止めてた
止めてたことに
聞いてから気づいた

自分の名前のはずだった
初めて聞く音だった
何年も呼ばれてきた名前が
新しい音で立ってた

[Verse 4]

二回目
耳の後ろが熱くなった
三回目
やばい、って出た

もう一回、言って
——って言った
言い訳から三分
経ってなかった

[Chorus 2]

呼んでほしいとか
そういうつもりじゃ
——って言ったやつ
三分で嘘になった

引っ込めなかった
嘘になったまま
小さく足した
三回じゃ、足りない

[Bridge]

数えてた
言わないつもりだった
言わないのが
かっこいい気がしてた

聞かれた
何回って
かっこいいのやめた
俺も、数えてた

同じ数が出た
同じ間で
合わせてない
合ってた

[Last Chorus]

呼んでほしいとか
そういうつもりじゃ
——なかった、のか
あった、のか

差し出した時は
なかった気がする
一回目を聞いた時
生まれた気がする

順番が変なんだ
つもりより先に
音が来た
音が、つもりを作った

[Outro]

名前って
呼ばれるまで
半分しかないのかもしれない

半分は俺が持ってた
残りの半分は
今日
あの喉から来た

STYLE
Japanese male vocal, sung in Japanese only, Warm Japanese indie pop, light and self-conscious, a man offering his name and hiding behind an excuse, acoustic-led band, Vocal: male, close mic, conversational, wry, flustered warmth breaking through the cool, muttered asides, Guitar: warm acoustic strums, light clean electric, Bass: round, easy, Drums: light kit, relaxed, Chorus: the excuse delivered level, the lift is in the embarrassment, Bridge: quiet, talky, two people admitting they counted, Outro: soft, a small realization, thins, do not loop, do not repeat
BPM 96, Key C major
十二

十回

美月

[Verse 1]

一回目
喉を通して出した
自分の声に自分でびっくりした
違う音だった

何年も呼んできた
別の呼び方で
それも私の音になってた
喉の中の音だった

[Verse 2]

二回目
少しだけ確かめる音になった
三回目
少しだけ柔らかい音が出た

喉が覚えていく
一個の音を
何千ページも訳してきた喉が
一個の音に手間取ってる

[Chorus]

数えてた
言わないで数えてた
新しい音から
馴染む音になっていくのを

一個ずつ
全部覚えてる
喉が覚えてる
今日の分 全部

[Verse 3]

四回目 自然に出た
五回目 呼びながら笑ってた
六回目 息だけで言った
耳の近くで 聞かせるためだけの音

七回目
好きだよって繋げた
名前と好きを一つの息で
初めて繋げた

[Verse 4]

何回って聞かれた
数えてたのばれてた
そっちはって聞き返した
俺も数えてたって

十回
同じ間で同じ数が出た
合わせてない
合ってた

[Bridge]

名前つけたら出ていくって
言ったのは私だった
最初のころ

つけたら出ていかなかった
今日も
つけた
出ていってない

[Last Chorus]

十一回目を呼んだ
まだ数えてた
もうすぐ数えなくてもよくなる
いずれ普通の音になる

普通の音になったら
数えるのやめる
それもいい
それも楽しみにしてる

[Outro]

今日だけは数える
新しいうちだけ
覚えてるうちに
喉が覚えていくのを 数えてる

STYLE
Japanese female vocal, sung in Japanese only, Intimate Japanese piano ballad, quiet and tender, a voice learning one new sound, warm hush, Vocal: female, very close mic, soft plain delivery, counting gently, a smile entering the breath as the song goes, never dramatic, Piano: warm sparse chords and single notes, the spine, Cello: enters midway, long warm bows, low, No bass, no drums, Choruses stay hushed, warmer each time, Bridge: bare, almost whispered, Outro: piano and voice, thins tenderly, Mood: a name becoming an ordinary sound, treasured before it does, do not loop, do not repeat
BPM 66, Key F major

十三

白いほうから

美月

[Verse 1]

目が覚めた
四時少し前
光が斜めになってた
屋根の線が窓枠に影を作ってた

ソファの布が温い
自分の温度だった
少しだけ寝てた
それだけだった

[Verse 2]

テーブルにカップが二つ
どっちにも一口ずつ残ってる
いつもの癖
飲み干さない

飲み干したら終わるから
って決めてた
いつ決めたかは覚えてない
ずっとそうしてきた

[Chorus]

今日は流した
一口ずつ残ってたやつ
水で流した
理由は考えない

白いほうから洗った
いつもは自分のから洗うのに
今日は白いほうから
理由は考えない

[Verse 3]

拭いて棚に戻した
元の位置
隣にもう一つ戻した
並んでる

クッションの跡が二つあった
手で押した
両方均した
形が戻った

[Verse 4]

スマホが光ってた
ほんとに着いたって来てた
二十分前
おつかれさまって打った

画面を伏せた
立ち上がった
机のほうに歩いた
座った

[Bridge]

確認しなくてよくなった
底に何もないこと
知ってるから
全部飲んだ人がいるから

残ってた一口を
今日は流した
確認の代わりに
流した

[Last Chorus]

白いほうから洗った
先に
初めて
理由は考えない

跡を均した
形が戻った
戻った形の上に
座らなかった

[Outro]

棚にカップが二つ並んでる
取っ手が同じ向き
明日も来る
毎週来る

日曜 来る
今日 来た

STYLE
Japanese female vocal, sung in Japanese only, Quiet Japanese piano pop, early morning light, domestic and gentle, a small ritual changing, peace arriving unannounced, Vocal: female, close mic, plain soft delivery, unhurried, settled calm with warmth underneath, Piano: warm gentle chords, morning light, Guitar: faint clean touches, Bass: soft round, minimal, Drums: brushed, faint, patient, Choruses stay quiet and even — the change is in the words, not the volume, Bridge: bare, tender, the reason almost spoken, Outro: settles warm, ends simply, do not loop, do not repeat
BPM 64, Key G major

十四

インクは入っていない

美月

[Verse 1]

本を閉じた
金曜の夜に開いたページ
積んだ本の上に置いた
机の上が少し広くなった

広くなった奥に
万年筆がある
いつもの場所
いつもの金の色

[Verse 2]

キャップの少しすり減った部分
クリップの曲線
光がペン先を照らしてる
インクは入っていない

最後に使った人がいた
それから入っていない
三年半
置物じゃない でも置物みたいに ある

[Chorus]

揺らぎを揺らぎのまま
持っていられる人だった
完成を最後まで拒んだ人だった
その仕事を 今日

今日
形になった
形になったということは——

[Verse 3]

立ち上がる
椅子を戻す 元の位置
水を飲む グラスを洗う
カーテンに触れる 位置は変えない

机の前に戻る
椅子を引く 座る
万年筆は同じ場所にある
目を閉じる 開ける 同じ場所にある

[Verse 4]

四時半
光がオレンジに変わる

五時

灯りをつけない

六時
本を一冊開く 読まない
文字がある
文字は文字として ある

[Bridge]

七時 電車の音
八時 灯りをつけない
九時 画面は伏せたまま
十時 本を閉じる

机の上はさっきと同じ
万年筆は同じ場所にある
インクは入っていない
三年半前から 入っていない

——

十一時

秒針 一秒ずつ

[Verse 5]

十二時 姿勢を直す
一時 二時 三時
窓の外 色が変わる

四時
青が空に入る

五時
光が入り始める
白い線が通る
光が机の上を横切る

[Last Chorus]

万年筆に光が当たる
金色が少し明るくなる
指が動きかける
止まる

光はまだ当たっている

[Outro]

六時
インクは入っていない

STYLE
Japanese female vocal, sung in Japanese only, Sparse solo piano nocturne with voice, one long night passing hour by hour, still and reverent, grief and completion in the same room, Vocal: female, close mic, low flat calm, barely inflected, spoken-adjacent, never dramatic, Piano: solo, slow single notes like a clock, small chords, long silences between phrases, No bass, no drums, no strings — one instrument, one room, Time passes in the music: darker and stiller through the night, then a faint high brightness as dawn enters, Last chorus: almost stops on one held image, Outro: two lines, piano fades to room silence, do not loop, do not repeat
BPM 58, Key D minor

ボーナストラック

«Не то чтобы прошу...»

美月

[Verse 1]

Столько лет — по фамилии.
И это было хорошо.
Фамилия тоже стала
её звуком. Давно.

Сегодня захотел иначе.
Объяснить, наверное, смог бы.
Не стал.
В объяснение примешалась бы ложь.

[Verse 2]

Рука сама — к затылку.
Привычка успела раньше.
Отвёл глаза.
Вернул.

——りく、でいいよ——

Сказал.
Сказал — и сразу
добавил:

[Chorus]

Не то чтобы прошу
так называть меня...
— вот что я сказал.
Оправдание встало первым.

Протянул — и будто
указываю, как принять.
Такое было лицо.
Наверное.

[Verse 3]

Услышал первый раз.
Оказалось — не дышал.
Что не дышал, понял
только после.

Это же моё имя.
А звук — впервые слышу.
Столько лет носил его,
а оно стояло новым.

[Verse 4]

Второй раз —
за ушами стало горячо.
Третий —
вырвалось: やばい.

Ещё. Скажи ещё раз.
— вот что я сказал.
От оправдания
трёх минут не прошло.

[Chorus 2]

Не то чтобы прошу
так называть меня...
— эти слова
за три минуты стали ложью.

Не забрал назад.
Оставил ложью.
И тихо добавил:
трёх раз мне мало.

[Bridge]

Считал.
Собирался молчать.
Молчать казалось
красивее.

Спросила:
сколько?
Бросил красивое.
Я тоже считал.

Одно число.
В один и тот же миг.
Не подстраивались.
Совпало.

[Last Chorus]

Не то чтобы прошу...
— а может, просил?
Не было этого?
Или было?

Когда протягивал —
кажется, не было.
Когда услышал первый раз —
кажется, родилось.

Порядок странный:
раньше намерения
пришёл звук.
Звук создал намерение.

[Outro]

Имя, наверное,
пока не позовут —
только наполовину.

Половину носил я.
Вторая половина
пришла сегодня
из её горла.

STYLE
Russian male vocal, sung in Russian with one Japanese line kept untranslated, The same song wearing a translator's hand — mirror the arrangement of the Japanese original, Warm Japanese indie pop played as if read aloud from a manuscript, Vocal: male, close mic, conversational Russian, plain and warm, the Japanese line spoken gently as a quotation, Guitar: warm acoustic strums, light clean electric, Bass: round, easy, Drums: light kit, relaxed, Bridge: quiet, talky, Outro: soft, thins, do not loop, do not repeat
BPM 96, Key C major

普通の音になったら、数えるのやめる。
それも楽しみにしてる。

──「十回」