lowlights
物理状態の連作 · 全23曲 · 全行7モーラ

未到体

Unarrived States

向かっているのに、何にも着いていない

Movement without arrival — physical states described in 7 morae per line, no subject, no emotion.

一本の線が左から右へ、23曲を貫いて伸びる。上方の破線は閾(到達・着地)——だが線はそこへ着かない。各曲から閾へ立つ細い垂線が、その都度の「未到の隙」である。

第一部〈非整合体〉では、すでにある身体が二本の線に分かれたまま揃わない。第二部〈接続非整合体〉で線は閾へ迫り、掠めるが一致しない。第三部〈未発生体〉は閾へ向かう八つの突端——手前で止まる越える瞬間越えた直後の三位相に分かれる。最高到達点〈反転前〉で因果が逆転し(朱)、最終曲〈放電前〉は閾の手前で止まる。発火前と放電前は同じBPM 74——戻ったが、同じ場所ではない。

『未到体 / Unarrived States』は、物理現象の状態記述だけで書かれた23曲の連作である。全行7モーラ、主語なし、感情語なし、説明なし。前作『不成立 / Unresolved Systems』が「成立しない世界」を書いたのに対し、本作は「何かに向かっているのに、何にも着いていない世界」を書く。動きはある。しかし着地がない。

23曲は三部に分かれる。非整合体は身体の内部で、一つのものが一つとして揃わない状態。接続非整合体は身体の外、物理現象そのものの不整合。未発生体は閾値の直前、まだ起きていない状態。観測は身体の奥から外へ、そして発生の手前へと移っていく。

全曲を貫くのは閾値という主題である。とりわけ最終部で前景化し、最終曲「放電前」が条件をすべて揃えながら放電せず「まだ何も無い」で閉じることで、連作全体が閾値の手前で終わる。一曲目から最終曲まで、すべては「ある」の側から「ない」を書いている。

感情を一語も書かず、物理の記述だけで、到達しなさを23通りに書き分けた。読者はここで意味ではなく配置として、揃わないまま並んでいる状態を観測することになる。

I

非整合体 Unaligned States

身体を一つの主体として扱わず、手・目・息・耳・骨の五つに分解して記述する。世界そのものは成立している——音は届き、光は見え、重さはかかり、呼吸は続く。ただしその中に含まれる人間だけが、整合した一つの存在としてまとまらない。

これらは壊れた身体ではない。いずれも観測可能な、成立した現象である。ただしそれらを統合して「一人の人間」として扱うことができない。成立している状態の中で、整合だけが欠けている構造。

01

指を閉じても 少し余る間

Verse 1

机の端に
指が置かれる
五本の指の
二本だけ浮く

指の腹だけ
温度が残る
爪の白さが
先に離れる

Pre-Chorus

指と指との
あいだが伸びる
間隔だけが
先に広がる

Chorus

そこにある手が
位置を持たない
関節ごとに
違う時間が

同時に並び
整列しない
指のあいだに
余白が増える

Verse 2

親指だけが
少し遅れる
他の指とは
揃わず残る

曲がる順番
回ごと変わる
同じ形へ
戻らずずれる

Pre-Chorus

皮膚の内側
別に動いて
外から見える
形とずれる

Chorus

そこにある手が
ひとつにならず
関節ごとに
違う時間が

同時に並び
整列しない
指のあいだに
余白が増える

Bridge

指を閉じても
少し余る間
触れている面
一部がずれる

重なるはずの
位置が合わない
重ねた形
端だけ残る

Final Chorus

そこにある手が
個体にならず
五本の指で
分かれて残る

関節ごとに
違う時間が
同時に並び
整列しない

02

焦点

同じ景色が 二つに割れる

Verse 1

黒目の奥に
光が入る
白目の縁で
影だけにじむ

まぶたの内に
色がひろがる
閉じたままでも
像だけ揺れる

Pre-Chorus

視線の先が
先に外れる
向いているのに
届いていない

Chorus

焦点だけが
前にずれてる
左右の奥で
距離が合わない

ひとつの像が
二つに割れる
重なる位置が
少し離れる

Verse 2

右だけわずか
奥に引いてる
左の像が
手前へずれる

重なる線が
少し外れる
縁だけ二重
薄く滲んで

Pre-Chorus

まばたきのあと
位置へ戻らず
開いたままでは
距離だけ残る

Chorus

焦点だけが
前にずれてる
左右の奥で
距離が合わない

ひとつの像が
二つに割れる
重なる位置が
少し離れる

Bridge

目を閉じたあと
光がにじむ
消えたはずでも
像だけにじむ

開けたあとから
奥行きずれる
同じ位置でも
幅だけ変わる

Final Chorus

左右の像が
別々に出る
焦点だけが
前にずれてる

重なる位置が
ひとつに見えぬ
同じ景色が
二つに割れる

03

間拍

吐いてるあいだ 内側ひらく

Verse 1

吐いた息だけ
先に薄まる
吸った分だけ
奥までたまる

白さの端が
先からほどけ
口から出ても
形を持てぬ

Pre-Chorus

息継ぎのあと
音だけずれる
吸い切る前に
次が差し込む

Chorus

吸うたび奥で
深みが増える
吐くたび先が
少し薄れる

あいだが伸びる
数えに合わぬ
同じ拍でも
端からずれる

Verse 2

吸った直後に
吐くほうが来る
細い流れが
途中で割れる

喉元あたり
白さが戻る
消えたはずでも
すぐには消えぬ

Pre-Chorus

まばらな息が
揃わず続く
止めた分だけ
奥行き変わる

Chorus

吸うたび奥で
深みが増える
吐くたび先が
少し薄れる

あいだが伸びる
数えに合わぬ
同じ拍でも
端からずれる

Bridge

吐いてるあいだ
内側ひらく
吸うたびすぐに
奥行き閉じる

同じ速さで
続いて見えて
ひとつに見えて
線にはならぬ

Final Chorus

吸うたび奥で
深みが増える
吐くたび先が
少し薄れる

あいだの拍が
少しずれ出す
同じ流れが
端からずれる

04

鼓膜

片耳だけが 濡れたままいる

Verse 1

耳の奥まで
低い音来る
膜のあたりで
丸さがほどけ

耳たぶだけに
冷たさ残る
近くで鳴るに
奥からひびく

Pre-Chorus

先から入る
遅れて満ちる
片耳だけが
先に湿って

Chorus

鼓膜の面が
少し反ってる
同じ鳴りでも
深さが違う

右へ来たのに
左で濁る
ひとつの響き
端からたわむ

Verse 2

耳たぶ揺れて
遅れて冷える
外からの波
途中で曲がる

薄い膜ほど
先にふるえる
聞いたはずより
遠さが増える

Pre-Chorus

触れずに鳴って
内側へ行く
耳のふちだけ
深く湿って

Chorus

鼓膜の面が
少し反ってる
同じ鳴りでも
深さが違う

右へ来たのに
左で濁る
ひとつの響き
端からたわむ

Bridge

口より先に
膜から揺れる
止んだあいだも
奥ではつづく

同じ高さが
弓にほどける
近さのはずが
後ろへ逃げる

Final Chorus

片耳だけが
濡れたままいる
低い鳴りほど
奥へ沈んで

聞こえた位置が
外れてしまう
ひとつの波が
膜ごとたわむ

05

継目

寝かせた脚が 床からきしむ

Verse 1

肩の奥では
骨の継ぎ目で
細い重みが
先からずれる

肘の内側
白さが落ちる
曲げたはずでも
角度が合わぬ

Pre-Chorus

立てた骨だけ
遅れてきしむ
支えの先が
横へ逃げ出す

Chorus

継ぎ目の奥で
深さが変わる
立った重みが
下へ流れる

一本ずつの
硬さが違う
同じ姿勢で
揃っていない

Verse 2

膝の裏では
細く鳴り出す
脛のあたりが
先に冷えてる

浮いた踵が
遅れて触れる
立てたままでも
内側しなる

Pre-Chorus

骨まで響く
外からの圧
まだ触れぬのに
先から落ちる

Chorus

継ぎ目の奥で
深さが変わる
立った重みが
下へ流れる

一本ずつの
硬さが違う
同じ姿勢で
揃っていない

Bridge

寝かせた脚が
床からきしむ
伸ばした骨が
途中でゆがむ

同じ長さで
並んだはずが
片側だけに
重さが残る

Final Chorus

立った骨だけ
深く沈んで
曲げた角度が
外れて見える

一本ずつが
別々に鳴る
同じ支えの
根元が沈む

II

接続非整合体 Unbound States

観測を身体の外側へ拡張する。影・温度・圧・接地・空気・流体・摩擦・振動・屈折——身体に作用する外的現象。外部も身体もそれぞれが独立して成立しているが、両者の対応関係だけが一致しない。触れているはずの位置と温度が合わない。見えているはずの影と形が一致しない。

最終曲「同所」が、それまでの全現象を一つの場に集約する。ただし目的は統合ではない。各現象は同時に存在するが、互いに干渉せず、揃うこともない——「同じ場にあるが並び切れない」ことの確定。

06

光と面

影が先行く のちに重なる

Verse 1

床へ影落つ
光は低い
壁までのびる
角で二つに

面またぎゆく
濃さだけ変わり
もとより長く
端から細る

Pre-Chorus

向きはそのまま
影だけ遠く
壁ぎわの角
途中が途切る

Chorus

影が先行く
のちに重なる
壁から床へ
すぐには落ちぬ

輪郭のこる
面よりあまる
差す向きちがう
形が合わぬ

Verse 2

夕差しのなか
影幅細る
段差のところ
線だけ折れる

壁から離れ
床へ落ちつつ
高低の差で
面ごと伸びる

Pre-Chorus

差すもの見えぬ
光なおあり
影のみ遠し
壁まで届く

Chorus

影が先行く
のちに重なる
壁から床へ
すぐには落ちぬ

輪郭のこる
面よりあまる
差す向きちがう
形が合わぬ

Bridge

壁から床へ
影だけ渡る
切れたところに
濃さだけ残る

細帯割れて
角から折れて
戻らぬままで
下へ落ちゆく

Final Chorus

影が先行く
のちに重なる
低い光で
端だけ動く

一つの影が
面ごと映る
差す向きちがう
形が合わぬ

07

温度

面と素材

布越しの熱 硝子の冷えは 同じ高さで 交わらぬまま

Verse 1

触れた面より
冷えだけ残り
湯気立つ上で
熱だけ遠し

布越しなのに
熱だけ寄りて
置いた器に
白さだけあり

Pre-Chorus

ぬるい光で
冷えまだとどむ
触れた面とは
温みが違う

Chorus

先に冷え立つ
のちまで温い
触れた面から
外れて残る

湯気まだ白く
器なお冷ゆ
置いた布地に
温みだけ乗る

Verse 2

朝の硝子に
冷えだけ薄く
日差しの下で
板だけ温い

金属のへり
そこだけ温く
水滴の跡
冷えだけ戻る

Pre-Chorus

白む湯気では
熱まだ見えず
触れぬ面にも
温みがひらく

Chorus

先に冷え立つ
のちまで温い
触れた面から
外れて残る

湯気まだ白く
器なお冷ゆ
置いた布地に
温みだけ乗る

Bridge

濡れた机に
円だけ白く
離れた後に
熱だけ残る

布越しの熱
硝子の冷えは
同じ高さで
交わらぬまま

Final Chorus

先に熱立つ
のちまで冷える
置いた面から
外れて残る

湯気なく白く
器なお冷ゆ
布地の上に
温みだけ乗る

08

力と面

強くかけても 曲がりは浅い 弱く触れても 深さが増える

Verse 1

押して返らぬ
跡にはならず
押した直後に
戻りは早い

離したあとに
沈みが遅い
同じ手順に
並びだけ反る

Pre-Chorus

押した時には
形は保ち
離した時に
曲がりが残る

Chorus

先に押し込み
のちほどけゆく
かけた手順と
戻りが合わぬ

触れた面には
変わりは見えず
離れたところ
遅れて歪む

Verse 2

強くかけても
曲がりは浅い
弱く触れても
深さが増える

押した長さと
戻りは合わず
離したあとに
形が崩る

Pre-Chorus

かけた強さと
ほどけが合わぬ
触れぬ面まで
歪みが走る

Chorus

先に押し込み
のちほどけゆく
かけた手順と
戻りが合わぬ

触れた面には
変わりは見えず
離れたところ
遅れて歪む

Bridge

押した時には
面は平らで
離したあとに
波だけ立てる

かけた順では
戻りは来ずに
ほどけたあとで
形が寄れる

Final Chorus

先に押し込み
のちほどけゆく
置いた順では
戻りが来ない

触れた面には
変わりは見えず
離れたところ
遅れて歪む

09

接地

面と点

平らなままで 隅だけ触れぬ

Verse 1

面はあるまま
触れ口は散る
置いた直後に
点だけずれる

平らな板で
端だけ浮いて
乗せた形が
位置を外れる

Pre-Chorus

触れたはずでも
点だけ揺れる
置いた位置とは
触れ口ずれる

Chorus

先に面ある
のちに触れ来る
置いた順では
触れ目が合わぬ

平らな上で
一点が浮く
乗せた形が
面を外れる

Verse 2

段差の際で
片だけ触れる
水平なのに
端だけずれる

床とのあいだ
空気が入る
触れたところが
触れ位置ずれる

Pre-Chorus

かかる向きでは
触れ口合わぬ
触れぬところに
点へ寄り来る

Chorus

先に面ある
のちに触れ来る
置いた順では
触れ目が合わぬ

平らな上で
一点が浮く
乗せた形が
面を外れる

Bridge

平らなままで
隅だけ触れぬ
置いた中ほど
端へ傾く

片側触れて
逆の側浮く
置いた向きとは
点だけ移る

Final Chorus

先に面ある
のちに触れ来る
置いた順でも
触れ目離れる

平らな上で
一点が浮く
乗せた形は
角へと寄れる

10

空気

風と物

見えぬ流れが 布目を分ける

Verse 1

風先に行く
後からなびく
抜けた後にも
形ほどける

同じ場の中
向きだけ違う
触れず動かす
ものだけ動く

Pre-Chorus

過ぎた後にも
動きまだあり
触れぬ場の中
そよぎは起きる

Chorus

風先に行く
後もの揺らす
先後変わる
変化は合わぬ

同じ空気で
層だけ分かる
触れずに崩る
端だけ動く

Verse 2

窓辺端だけ
中ほど静か
抜けた後には
はためき残る

細い隙間へ
風だけ曲がる
見えぬ抜け道
裾だけ動く

Pre-Chorus

向き変わるたび
たわみずれ出る
触れぬ場へ寄り
そよぎを寄せる

Chorus

風先に行く
後もの揺らす
先後変わる
変化は合わぬ

同じ空気で
層だけ分かる
触れずに崩る
端だけ動く

Bridge

抜けた後でも
揺れだけ続く
見えぬ流れが
布目を分ける

同じ高さで
片だけ動く
触れる手前で
向きだけ折れる

Final Chorus

風先に行く
後もの揺らす
先後ずれる
変化はずれる

同じ空気で
層なお分かる
触れぬ端から
形は動く

11

流体

面と流れ

端では速く 中では遅い

Verse 1

流れ先行く
面際変わる
触れたはずでも
速さは変わる

同じ面でも
端では速く
中ほどだけが
遅れて残る

Pre-Chorus

触れた境いで
流れ曲がりて
面に沿い行き
向きだけずれる

Chorus

流れ止まらぬ
面際変わる
触れた順では
動き合わない

同じ面でも
速さに違い
端では速く
中では遅い

Verse 2

曲がる角では
渦回りゆく
触れた後から
渦だけ残る

離れたはずが
流れが戻る
面から剥がれ
流れほどける

Pre-Chorus

触れた後でも
流れ離れる
面との間
隙間ひらける

Chorus

流れ止まらぬ
面際変わる
触れた順では
動き合わない

同じ面でも
速さに違い
端では速く
中では遅い

Bridge

面に沿い行き
端だけ剥がれ
中ほどだけが
動き遅るる

同じ面でも
動きは違う
触れたところで
渦だけ回る

Final Chorus

流れ止まらぬ
面際変わる
触れた順でも
動きずれゆく

同じ面でも
速さに違い
端では速く
中では遅い

12

摩擦

力と床

触れたままでは 動きは起きぬ 滑り出したら 抵抗弱る

Verse 1

押して動かぬ
床に触れつつ
引き始めても
止まり続ける

同じ床でも
止まるとこあり
滑るとこあり
力変えても

Pre-Chorus

引き始めでは
動きはあらず
動き出す時
速さが変わる

Chorus

押しても止まる
引いても止まる
動いたのちに
滑り始める

同じ床でも
摩擦に違い
止まるとこあり
滑るとこあり

Verse 2

引き続けても
動きは伸びぬ
力弱める
突然滑る

触れた順では
動き揃わぬ
同じ床でも
摩擦は変わる

Pre-Chorus 2

止まる時でも
力は残る
離した後に
滑り出しゆく

Chorus

押しても止まる
引いても止まる
動いたのちに
滑り始める

同じ床でも
摩擦に違い
止まるとこあり
滑るとこあり

Bridge

触れたままでは
動きは起きぬ
滑り出したら
抵抗弱る

同じ力で
止まりと滑り
一つの床で
動き分かれる

Final Chorus

押しても止まる
引いても止まる
動いたのちに
滑り続ける

同じ床でも
摩擦に違い
止まるとこあり
滑るとこあり

13

振動

力と板

力変えても 幅は変わらぬ

Verse 1

同じ幅でも
振れは揃わぬ
触れたところで
遅れ現る

端だけうねる
中では止まる
同じ板でも
幅だけ変わる

Pre-Chorus

振れの始めに
ずれだけ残る
同じ隔てで
合わぬまま行く

Chorus

同じ幅でも
揃いはしない
先に振れ出す
遅れて響く

同じ力で
幅だけ増える
動かぬところ
動く場所別

Verse 2

触れぬところで
先に波立つ
止まる場所でも
響きは続く

力変えても
幅は変わらぬ
同じ時間で
ずれだけ増える

Pre-Chorus 2

振れが届いて
返りは遅い
先と後では
形が変わる

Chorus

同じ幅でも
揃いはしない
先に振れ出す
遅れて響く

同じ力で
幅だけ増える
動かぬところ
動く場所別

Bridge

同じ板でも
振れは広がる
届かぬままで
先から響く

端では強く
中では弱く
一つの板で
振れは分かれる

Final Chorus

同じ幅でも
揃いはしない
先に振れ出す
遅れて続く

同じ力で
幅だけ増える
動かぬところ
動く場所別

14

屈折

光と境界

虹色に裂け 赤先に出る 青まだ残る

Verse 1

水辺が浅い
そこまで近い
手を伸ばす先
触れずに止まる
境の向こう
筋だけ曲がる
上側に見え
下には触れず

Pre-Chorus

速さが変わる
境で折れる
進む向きずれ
出る位置がずれ

Chorus

入る位置ずれ
出る位置別に
真っ直ぐ行かず
折れて抜けてく

Verse 2

色がばらける
赤と青ずれ
筋が二つに
並び切れない
上へずれ見え
奥には遠い
手前に見える
触れずにずれる

Pre-Chorus 2

境で折れる
速さに差が出
筋の向きずれ
出る位置がずれ

Chorus

入る位置ずれ
出る位置別に
真っ直ぐ行かず
折れて抜けてく

Bridge

速度が落ちる
進路が分かれ
虹色に裂け
赤先に出る
青まだ残る
筋先分かれ
重なり切れず
別へ抜け出す

Final Chorus

入る位置ずれ
出る場所別に
真っ直ぐ行かず
折れて抜けてく

15

同所

全現象

同じ場にある 並び切れずに 揃わぬままで 分かれて残る

Verse 1

影だけずれる
熱だけ残る
押せど動かず
点だけ当たる
空気は二層
端だけ速い
まだ滑り無し
揺れだけ遅れ

Pre-Chorus

同じ場にある
それぞれ残る
重なり切れず
並びもずれる

Chorus

同じ場にある
並び切れずに
揃わぬままで
ばらけて残る

Verse 2

水上浅い
奥だけ近い
色だけ裂ける
筋だけ分かれ
面なのに点
触れてもずれる
離れて動く
滑るのは後

Pre-Chorus 2

影だけ右へ
音だけ遅れ
二層の空気
合わずに残る

Chorus

同じ場にある
並び切れずに
揃わぬままで
ばらけて残る

Bridge

影右へ行く
熱だけ浮かぶ
端だけ流れ
赤先に出る
青後にある
点だけ残る
押しても止まる
音だけ後へ

Final Chorus

同じ場にある
並び切れずに
揃わぬままで
分かれて残る

III

未発生体 Unemerged States

「まだ起きていない状態」を記述する8曲。閾値に向かう過程、越える瞬間、越えた直後の不安定——三つの位相を曲ごとに変え、全曲が同じ方向にならないよう設計した。発生していないのに「体」がある、という矛盾した名がこのシリーズの本質である。

全曲のBridgeで層が切り替わり、視点が転換する。最終曲「放電前」が「手前で止まる」ことで、シリーズ全体が閾値の手前で閉じる。一曲目「発火前」の「まだ火が点かず」に始まり、最終曲の「まだ何も無い」へ——特定の不在から全称の不在へ。

16

発火前

手前で止まる

まだ火が点かず

Verse 1

奥から詰まる
膜越しの距離
湿りの失せる
縁の反り出す
音を立てない
密度の上がる
逃げ場を持たず
裏で寄り合う

Pre-Chorus

隙間の絶える
粒の縮まる
触れずに届く
際から滲む

Chorus

芯まで乾く
空気の軋む
底から迫る
色の抜け出す

Verse 2

揺れの伝わる
肌理の崩れる
匂いの兆す
罅へ広がる
重さで歪む
煤の浮き立つ
厚みの消える
中から透ける

Pre-Chorus

繊維の切れる
表から剥ぐ
熱の籠もれず
境を失くす

Chorus

芯まで乾く
空気の軋む
底から迫る
色の抜け出す

Bridge

外へ退いてく
酸素が寄れる
埃の揺らぐ
壁の膨らむ
床を伝わず
上へ集まる
出口を塞ぐ
全部が薄い

Final Chorus

芯まで乾く
空気の軋む
底から迫る
まだ火が点かず

17

接触前

越える瞬間

一つに成れず

Verse 1

隔ての痩せる
先の窄まる
荷重の掛かる
角度が狂う
面を成し出す
電荷で弾む
熱の触れ出す
沈みの足りず

Pre-Chorus

距離の痺れる
向きの定まず
片側で寄る
余白の耐えず

Chorus

面の押し合う
凹みが走る
区切りが消える
二面が混ざる

Verse 2

跡の広がる
粘りで繋ぐ
窪みに沿って
戻りの利かず
染みへ移れる
組織を跨ぐ
端から馴染む
離れが解けず

Pre-Chorus

間の詰め切れず
泡の潰れる
吸い付きの増す
切れ目の埋まる

Chorus

面の押し合う
凹みが走る
区切りが消える
二面が混ざる

Bridge

挟まれが逃げ
端へ押し出す
余りが溢れ
受けの無い場へ
薄く引き延ぶ
嵩の減り出す
戻る場の無く
外へ凝り出す

Final Chorus

面の押し合う
凹みが走る
区切りが消える
一つに成れず

18

崩落前

越えた直後

落ちて届かず

Verse 1

支えの抜けた
軸の傾く
梁が沈んで
筋の入り出す
粉の零れる
留めが緩んで
重さで垂れる
形だけ保つ

Pre-Chorus

板が撓んで
柱が捻れ
釣り合い崩れ
音の遅れる

Chorus

崩れが掛かる
下へ引かれる
順に抜け出す
宙で止まれず

Verse 2

束で落ち出す
角が砕けて
中が露わに
鉄の覗ける
塵で霞んで
先の見えない
地へ届かない
途中で散れる

Pre-Chorus

震えの止まず
波が重なる
速さの増して
静まりの無い

Chorus

崩れが掛かる
下へ引かれる
順に抜け出す
宙で止まれず

Bridge

上の開き出す
空が近づく
仕切りの消えて
風の通れる
光が差せる
遮りが解け
奥が見通せ
剥き出しの空

Final Chorus

崩れが掛かる
下へ引かれる
順に抜け出す
落ちて届かず

19

発声前

手前で止まる

声の無いまま

Verse 1

喉の開き出す
息の溜まれる
舌が浮き出す
顎の下がれる
管の細まる
膜の触れ合う
胸で押し上げ
声に至らず

Pre-Chorus

小刻みに鳴る
弁の開けない
息が擦れ出す
音の手前で

Chorus

喉の詰まれる
吐けずに籠もる
口だけ動く
何も鳴らない

Verse 2

息の戻れず
肺で膨れる
肋が押される
腹の張り出す
血が上り出す
耳が遠退く
視野が狭まる
声の無いまま

Pre-Chorus

口の渇いて
唾の糸引く
奥の焼け出す
息だけが漏れ

Chorus

喉の詰まれる
吐けずに籠もる
口だけ動く
何も鳴らない

Bridge

空気が凪いで
壁に吸われる
音の映らず
響きを持たず
隅に沈んで
物の揺れない
黙りの厚い
空へ散れ出す

Final Chorus

喉の詰まれる
吐けずに籠もる
口だけ動く
声の無いまま

20

反転前

越える瞬間

前後すら無く

Verse 1

速度の落ちる
向きの保てず
先の鈍れる
惰性で進む
戻りが掛かる
逆が引き寄せ
どちらでも無く
止まりも出来ず

Pre-Chorus

勢いが失せ
頂点で揺れ
上下の消える
重さだけの間

Chorus

向きが返れる
極が反れ出す
裏が表に
前後を失くす

Verse 2

逆に振れ出す
起点が消える
速度が乗れず
振られて揺れる
前が後ろに
左右も逆に
座標の合わず
位置を掴めず

Pre-Chorus

位相がずれる
基準を失くす
対が崩れる
元に戻せず

Chorus

向きが返れる
極が反れ出す
裏が表に
前後を失くす

Bridge

終わりが先に
順が逆向く
割れてから落ち
触れてから寄る
傷の先に刃
濡れてから降る
順序が壊れ
時の綻ぶ

Final Chorus

向きが返れる
極が反れ出す
裏が表に
前後すら無く

21

凝固前

越えた直後

中がまだ揺れ

Verse 1

冷えの始まる
流れの鈍る
濃度の増せる
端から変わる
核の生まれる
粒が連なる
格子の出来る
まだ脆いまま

Pre-Chorus

膜の張り出す
奥がまだ揺れ
斑に固まる
触れば崩れる

Chorus

固まりかけて
液を含んで
割れずに耐える
形を持てず

Verse 2

核から育つ
列に沿い伸び
濁りを弾く
澄む所から
混じりの押され
外へ追い遣る
透き通り出す
中だけ硬い

Pre-Chorus

固い所と
柔い所と
押せば凹んで
離せば沈む

Chorus

固まりかけて
液を含んで
割れずに耐える
形を持てず

Bridge

入れない液の
壁に寄せられ
凍れないまま
狭まる中に
囲いの迫る
圧し潰されず
閉じ込められて
中で漂う

Final Chorus

固まりかけて
液を含んで
割れずに耐える
中がまだ揺れ

22

沸騰前

越える瞬間

沸いて止まれず

Verse 1

下から温む
層の乱れる
縦に廻れる
微かに揺れる
珠の兆せる
壁に張り付く
浮きの始まる
面が波立つ

Pre-Chorus

珠の太れる
壁を離れる
昇りの止まず
数の増え出す

Chorus

中で弾ける
内が沸き立つ
液を裂き出す
抑えの利かず

Verse 2

泡の湧き出す
絶え間無く湧く
面を突き出す
飛沫の散れる
湯気の立ち込め
量の目に減る
揺れが止まない
全体で沸く

Pre-Chorus

蓋を押し上げ
溢れを止めず
音の途切れず
器を越えて

Chorus

中で弾ける
内が沸き立つ
液を裂き出す
抑えの利かず

Bridge

液を離れて
形が解ける
重さの抜ける
上へ広がる
見えずに昇る
触れて掴めず
薄まりの果て
液に帰れず

Final Chorus

中で弾ける
内が沸き立つ
液を裂き出す
沸いて止まれず

23

放電前

手前で止まる

まだ何も無い

Verse 1

電荷の溜まる
偏りの増す
極に寄り出す
間合いの詰まる
絶縁が減る
空気の焼ける
薄く光れる
まだ走らない

Pre-Chorus

毛が逆立てる
屑が浮き出す
肌が粟立つ
近づけば散る

Chorus

電位差の張る
道の出来かけ
繋がりかけて
まだ放たれず

Verse 2

電場の歪む
先の尖れる
距離の削れる
向き合い詰める
密に集まる
一つへ寄れる
道が出来ても
まだ跳び出せず

Pre-Chorus

間の裂けかける
イオンの走る
線の浮き出す
まだ繋がらず

Chorus

電位差の張る
道の出来かけ
繋がりかけて
まだ放たれず

Bridge

間に挟まれる
両から迫る
耐えの削れる
穴の空きかけ
盾の薄れる
光の漏れる
もう保てない
なお放たれず

Final Chorus

電位差の張る
道の出来かけ
繋がりかけて
まだ何も無い