Waka × Reiwa — Jokotoba Cycle
六つの風景 ・ ひとつの句 ── 全六曲
べつべつの みちだと おもっていた。
べつべつの みちだと おもっていた ── みんな この かわの りゅういきだった
序詞は言葉の無駄遣いではない。言いたいことを言う前に、それを受け止める器を聴き手の中に作っておく装置である。心は類型でいい──その心に至った道だけが、その人のものだ。
この連作では、六本の道がたったひとつの類型句に流れ込む。同じ十二音が、通ってきた風景の色を帯びて、六回、違う心として届くかどうか。それが賭けである。
Track 01 — 一 ── 隔たりの道
Shidario
風景の音 ウインカー
あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む
♪ Audio
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(アイドリングの低い音、ウインカーのカチ、カチ ── この音がそのままビートになる)
ちゅうおうどうの かんばんの緑 さがみこまで あと十四キロ ブレーキランプ ひとつ灯って うしろへ うしろへ つたわってゆく
まえのくるまの まえのくるまの そのまたまえは カーブのむこう あかい尾が やまの背にそって たれさがったまま うごかない
ウインカーの音(おと)だけ みぎ、ひだり ながい ながい ながい列の──
[Break ── 全楽器が引く。ウインカーの音のみ一拍]
ながれない よるのまんなかで
あえないひとを おもっている
おなじこえが よみあげるみちの どこかのばんごうの くるまのなか
あえないひとを おもっている
ラジオがくりかえす 「こぼとけトンネルを あたまに 十四キロの じゅうたい」 みちのりを はかる単位が キロじゃなく カーブのかずになる
ワイパーがはらう みぎ、ひだり ながい ながい ながい列の──
[Break ── 全楽器が引く。ワイパーの音のみ一拍]
ながれない よるのまんなかで
あえないひとを おもっている
だんぼうが まどをくもらせて そとのあかりが にじんでいる
あえないひとを おもっている
やまどりは よるがくると おすとめすが みねをへだてて べつべつに ねむるのだという だれがたしかめた はなしだろう たしかめられないから 千年のこった
ながれない よるの さいごまで
あえないひとを おもっている
あかい尾の いちばんさきは カーブのむこうで 見えないままだ 見えないさきへ むかって すすむ
あえないひとを おもっている
(列が ながれはじめる)
おもいだけ まだ ながれない
Suno ── A night drive minimal house 40/75 ・ B shoegaze electronica 45/72 ・ C alt-R&B 40/75 ・ D musique concrète 55/65
Track 02 — 二 ── 未見の道
Yukima
風景の音 歩行者信号
春日野の雪間をわけて生ひ出でくる草のはつかに見えし君はも
♪ Audio
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(雪にくぐもった雑踏、歩行者信号の電子音 ── 信号音がそのままビートの芯になる)
しぶやに ゆきが ふったひは ビジョンのひかりが ゆきにうつる いろつきのゆきが じめんにふれて しろいまま きえる つもれない
かさは かさと かさなりあって だれのかおも かくしてしまう かぜが ふくたび むれがゆれて ひらいては とじる ほそいみち
まちが しろくて こうさてんが しろくて かさと かさの あいだに ほそい すきま──
[Break ── 全楽器が引く。信号音のみ一拍]
すきまに みえた よこがおひとつ すきに なるのに しんごうひとつ
あえないひとを おもっている
みえたのは かおの みぎはんぶん
あえないひとを おもっている
しんごうが かわって ながれだす かさのむれに まぎれてしまう ふりむいた ぶんだけ おくれて わたしだけ わたりそこねる
まちは しろくて ひとは おおくて かさと かさの すきまは もう ひらかない──
[Break ── 全楽器が引く。信号音のみ一拍]
すきまは ひらいて とじてしまった すきだけ ここに のこっている
あえないひとを おもっている
かさのかずだけ ひとがいるのに
あえないひとを おもっている
ひるすぎ ゆきは とけはじめ くろい アスファルトが しろの あいだから かおをだす きえてゆく けしきの すきまにだけ めを だすものが ある
ゆきは ゆうがたには やんで こうさてんは いろを とりもどす それでも すきまが ひらくたびに
あえないひとを おもっている
つぎの ゆきまで おもっている
(しんごうが あおに かわる)
ことしの ゆきは これで おわり すきまだけ まだ ひらいている
Suno ── A crystalline future bass 42/75 ・ B UK garage 45/72 ・ C piano+glitch 40/72 ・ D hyperpop 55/65
Track 03 — 三 ── 秘密の道
Himeyuri
風景の音 フリック入力
夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ
♪ Audio
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(深夜の部屋の無音、フリック入力のタップ音 ── タップの音がそのままビートになる)
とどく ことばは けしておいて おくらない ことばを かいている じゅしんの ない よるに そうしんの ない はなが ひらく
したがきフォルダ ひづけのじゅんに おくられなかった ことばのれつ したへ したへ スクロールすれば ふるい なつの しげみになる
ドアには かぎを つうちには しずけさを がめんの おくの しげみには みずを ひとつ──
[Break ── 全楽器が引く。タップ音のみ一拍]
さくじょ できない まま ひゃくつうめ さくのを やめない はなが ある
あえないひとを おもっている
おくらないのに かきつづけている
あえないひとを おもっている
そうしんの てまえで ゆびを とめて ほぞんを おすと ちいさなおと かれないように みずをやるのと にたようなことを している
あさが きて がめんが ねむって フォルダが とじて しげみは ポケットのなか──
[Break ── 全楽器が引く。タップ音のみ一拍]
きょうも だれにも みつからないで きょうも かれずに さいている
あえないひとを おもっている
ポケットのなかに のはらを かくして
あえないひとを おもっている
せんさんびゃくねんまえの なつのうた しげみに さいた ひめゆりを うたげの まんなかで うたったひとがいる かくしたいのか みつけてほしいのか たしかめるすべは もうない ふたつの ねがいの あいだの はなが 千年 かれずに のこっている
あした あえば わらって はなす わらいながら かくしている
あえないひとを おもっている
おなじ しげみが みんなの ポケットに それでも わたしの はなは わたしのもの
あえないひとを おもっている
(ほぞんしました)
ひゃくいっつうめの つぼみ
Suno ── A bedroom pop 42/75 ・ B minimal dub techno 45/72 ・ C folktronica 40/72 ・ D glitch pop 55/65
Track 04 — 四 ── 自失の道
Ayame
風景の音 夜の鳥 ── 拍に乗らない
ほととぎす鳴くやさつきのあやめ草あやめも知らぬ恋もするかな
♪ Audio
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(五月の深夜の住宅街、遠くで鳥がひと声 ── 鳥の声は、ビートに乗らない)
めざましは ろくじよんじゅう かいさつは いつもの みぎはし さんごうしゃ にばんめの ドア まいにちは めもりの ように
えきまえの かだんの なふだ 「アヤメ」と かいて さいている つつじの つぎは あやめの ばん はなにも じゅんばんが ある
まよなかに とりが なく すがたは みえない なまえも しらない けんさくバーに 「よる なく とり」──
[Break ── 全楽器が引く。拍に乗らない鳥の声のみ]
あやめの きせつに あやめも しらず だれの ことかも わからないまま
あえないひとを おもっている
まだ あっていない ひとかもしれない
あえないひとを おもっている
めざましの まえに めが さめて いつもの ドアを のりすごす めもりの ずれた ものさしで はかれない ひにちが ふえてゆく
とりのこえは まいばん ちがう まど ちかづいて とおざかって けんさくの こたえは まだ でない──
[Break ── 全楽器が引く。拍に乗らない鳥の声のみ]
あやめは さいて じゅんばんどおり わたしだけ じゅんばんを うしなった
あえないひとを おもっている
おもう あいてが まだ いないのに
あえないひとを おもっている
せんねんまえの さつきの よるも こういう こえが していたという こえの ぬしを みたひとは いない みえない とりに さそわれて うたの ひとたちは みんな あやめを うしなって うたに なった
とりは いつか なきやんで あやめの はなは じゅんに かれる ずれた めもりだけ もとに もどらない
あえないひとを おもっている
なまえの ついてない おもいのまま
あえないひとを おもっている
(とおくで ひとこえ)
けんさくりれきだけが のこっている
Suno ── A broken beat 48/72 ・ B drum'n'bass 50/70 ・ C dream pop 42/75 ・ D free-tempo ambient 58/62
Track 05 — 五 ── 忘却の道
Izumi
風景の音 水滴 ── 等間隔
みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ
♪ Audio
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(深夜の台所、水滴が等間隔に落ちる ── 水滴の音がそのままビートになる)
だいどころで みずが おちる しめた じゃぐちの さきっぽから よなかの いえは しずかすぎて おちる あいだを かぞえてしまう
「ようりょうが のこり わずかです」 ごねんまえの フォルダの おく よみこみちゅうの しゃしんが いちまい まるい しるしが まわっている
ひづけは ある うつりも ある みおぼえの ある かべの いろ だれなのかだけ ぼやけたまま──
[Break ── 全楽器が引く。水滴のみ一拍]
いつのまにか ほぞんされていた いつ みたのかが おもいだせない
あえないひとを おもっている
おもいだせない ひとには あえない
あえないひとを おもっている
くわしい じょうほうを ひらいても 「ばしょの きろくは ありません」 ひづけと ようりょうの すうじだけ きおくのほうに めもりが ない
みずおとを かぞえながら めを とじても うかんでくるのは かおじゃなくて まわる しるし──
[Break ── 全楽器が引く。水滴のみ一拍]
いつのまにか と いう ことばには なくした 「いつ」が うまっている
あえないひとを おもっている
ほりだせないまま こいしいまま
あえないひとを おもっている
せんねんまえ いずみがわの ほとりに あったことのない ひとを こいしがった ひとが いたという ほんとうに あわないままだったのか いちど あって わすれたのか たしかめた ひとは いない とわれたままの 「いつ」が みなもとのように わきつづけている
じゃぐちは いつか なおすとして こんやは おとを かぞえていたい みなもとの ない こいしさのまま
あえないひとを おもっている
おもいだせないのに おもっている
あえないひとを おもっている
(ひとしずく、おちる)
はいすいこうの さきは かわに つづいている
Suno ── A ambient dub 50/73 ・ B deep house 48/75 ・ C felt piano 45/72 ・ D granular 58/62
Track 06 — 六 ── 無根拠の道 ・ 河口
Sarasara
風景の音 川 ── 途切れない
多摩川にさらす手作りさらさらになにそこの児のここだかなしき
♪ Audio
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(川の音。連続して、途切れない ── この連作で はじめて、拍のない音)
きゅうこうが てっきょうを わたる まどの したで かわが ひかった おりた ことの ない えきで おりて かせんじきまで あるいてみた
せんねんまえ この ながれで ぬのを さらす ひとらが いたという しごとは とうに ほろびて ことばだけ のこって ながれている
みずの おとには くぎりが ない かぞえる ばしょが みつからない かわに めもりは ついていない──
[Break ── 全楽器が引く。拍のない川だけが一小節]
おりる よていの なかった えきの かいさつを でて ここに いる
あえないひとを おもっている
なぜと きかれて こたえられない
あえないひとを おもっている
どこかの だいどころで おちた ひとしずくも まじっている みずに なまえは かいてないから どの しずくかは もう わからない
かせんじきの ひとびとは みんな かわを みて だまっている なにを おもっているかは みえない──
[Break ── 全楽器が引く。川だけ]
となりの ひとも その となりも だれかを おもって いるのだろうか ──と おもうのは わたしの かって
あえないひとを おもっている
それでも こえが そろう きがして
あえないひとを おもっている
かわかみから ことばが ながれてくる 「ながれない」が ながれてゆく 「すきま」は とじずに ながれてゆく 「さくじょ」は きえずに ながれてゆく 「あやめ」は はなの かたちの まま 「いつのまにか」は いつのまにか べつべつの みちだと おもっていた みんな この かわの りゅういきだった
ひが かたむいて みなもの ひかりが こまかく こまかく くだけてゆく さらさらと ながれていた おとが ふいに こころの ほうへ わたる さらさらに──
あえないひとを おもっている
さらさらに あえないひとを おもっている
(かわは このさき うみへ)
おもっている おもっている
Suno ── A organic house 55/72 ・ B post-rock electronica 52/72 ・ C 2-step garage 55/70 ・ D beatless ambient 60/62
おもっている
(川音、遠ざかる)
みちゆき ── 連作六曲 | 六つの風景、ひとつの句