Waka × Reiwa — Song Cycle
昼の三部 ・ 夜の三部 ── 全六曲
意味を失ったあとも、機能しつづける五音がある。
六つの玉、一本の緒。各曲は結尾で次の枕詞だけを囁いて切れる。最後の環は結ばれない。
枕詞は、意味を失ったあとも機能しつづける五音である。由来を尋ねても、答えは与えられない。答えが与えられないから、問いは千年閉じない──尊さはいつも、意味の手前にいる。
この連作は、その閉じない問いに令和の音を着せる六つの試みである。歌詞は敬って遠ざけてもらっていい。音は、隣に座る。
Track 01 — 昼の三部 ・ 一
Chihayaburu
導く語 神
千早ぶる神代もきかず龍田川からくれなゐに水くくるとは
♪ Audio
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ちはやぶる──
(ちはやぶる──)
だれが決めたの この五つの音(おと) 辞書の岸辺で 途切れる系譜 ほどけない結び目 千年のまま わからないから 目が離せない
意味を失くして なお立っている 鳥居のような ことばの門 くぐれば空気の 変わる気がした 名を呼ぶ前の ふかい息
静けさは合図 なにかが来る まだ言わないで まだ言わないで
ちはやぶる──
神代(かみよ)もきかぬ からくれなゐ 神の目でなく ひとの目が見た 千年前の 水のひかり 五つの音が 川を染めてゆく
スクロールの指 ふと止まる場所 流れる画面に 灯るいにしへ だれも読めない それでも言える くちびるだけが 覚えている
静けさは合図 きみが来る まだ振り向かないで まだ
ちはやぶる──
神より先に きみの名を呼ぶ 祭壇はここ 夕暮れの駅 不可解なひと 尊いひとよ 五つの音を きみに冠(かむ)せる
ネオン降る──まち ネオン降る──きみ 意味は言わない 言わないことが灯(あか)り 千年後のだれかが 首をかしげるように わたしはここに 結び目を置く
ちはやぶる──
となえる口に 意味は来ないまま ネオン降る きみの横顔 千年後のだれかも この駅に立ち 知らない五音(いん)に 足を止める 問いは閉じない 閉じないままで 五つの音の むこうがわ
ひさかたの──
(silence)
Suno設定 ── クール版 W40 / SI75 ・ キュート版 W45 / SI70
Track 02 — 昼の三部 ・ 二
Hisakata no
導く語 光・天
ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
♪ Audio
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ひさかたの──
(……ひかり)
カーテンのすきま ならんだ塵(ちり)が ひかりのなかで うかんで見えた いま触れたのは いつのひかり ふるい光しか ここには来ない
「のどけき」と くちが先に言う 読めない文字を 春が照らして 千年おなじ ひざしのなかで おなじことばが あたためられる
ひかりはしずか わたしたちだけ まだ散らないで まだ散らないで
ひさかたの──
ひかりのどけき 春の日なのに しづ心なく 花は散りゆく なぜと問うたひとの こえだけ残り こたえのかわりに ことしも散る
改札を出て 見上げた空に ひこうき雲が ほどけてゆく 八分おくれの ひかりを浴びて きみはきのうの 話をしてる
ひかりはしずか こころは急ぐ まだ消えないで まだ
ひさかたの──
ひかりをきみの 名にかぶせたら 横断歩道が 参道になる 散るものはみんな ひかりのなかで いちど止まって それから落ちる
ネオン降る──ひる 点かないネオンに ひざしが触れて 千年前の「なぜ」が 花のかたちで 降ってくる
ひさかたの──
八分まえの ひかりのなか きみの横顔に 花が止まる 千年まえの「なぜ」のとなりに わたしの「なぜ」を ならべて置く ひかりのむこう 春のむこうがわ
あかねさす──
(silence)
Suno設定 ── A 45/70 ・ B 40/75 ・ C 35/80 ・ D 55/65
Track 03 — 昼の三部 ・ 三 ── 相聞
Akane sasu
導く語 日・紫
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る
♪ Audio
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(女) あかねさす──
(男) (……むらさきの)
ゆうやけが しんごうの赤を のみこんで 街はひといろ フェンスごしの 草はらのはて ちいさく振れた 手が見えた
野守はいまも どこにでもいる ポケットのなか ひかったまま 見られたらだめ 見せたいきもち むらさきいろに 暮れてゆく
だれも見ないで だれか見ていて まだ振らないで まだ
あかねさす──
むらさきの野を ゆきながら 野守は見ずや きみが手を振る ゆうぐれの標(しめ) ほどけるまえに その手をとめて とめないで
ゆれるくさむら 風のとちゅうで あがりかけて とまった手を ぼくは見ていた それがぜんぶだ ひとのものだと しっていても
あかねさす──
ひかりのなかで にほうきみを にくんでいたら 恋などしない 野守もカメラも みんな見ればいい ぼくは大きく 手を振るだけ
(男) ネオン降る──きみ (女) ……それ、わたしのことば (男) 借りたよ 冠せて返すよ (女) 千年まえも こうやって (両) ことばは ひとの口を わたってきた
あかねさす──
あかねは暮れて むらさきになる むらさきの奥で くろが目をさます 振りかえす手と 手のあいだで むらさきが くろへ 野を手わたす (女) ひるのおわりに (男) よるのはじまりに (両) ふたつの手を 振っておく
ぬばたまの──
(silence)
Suno設定 ── A 40/75 ・ B 45/70 ・ C 35/80 ・ D 55/65
Track 04 — 夜の三部 ・ 四
Nubatama no
導く語 夜・黒・髪
居明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも
♪ Audio
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ぬばたまの──
(……よる)
終電のおとが とおざかって まちの音量(おと)が しぼられてゆく 既読のつかない ひかりを閉じて くらやみと ふたりになる
電源の落ちた 画面のくろは ぬばたまいろの ちいさな鏡 うつったかおに 夜がかさなって まばたきだけが うごいてる
まだ明けないで まだ明けないで
(よるにだけ たのんでいる)
ぬばたまの──
居明かして きみを待たむと わたしのくろかみ 霜は降るとも ドアのそとの 足音をかぞえ ちがう靴ばかり とおりすぎる
午前三時の まどの下では 看板の灯が ひとつずつ落ちる はく息だけが しろく生まれて よるにまざって 見えなくなる
まだ明けないで まだ
ぬばたまの──
そのさきに呼ぶ 名のぬしは来ない とどけさきのない かんむりが ひえたよぞらに うかんだままで わたしのかみへ 霜になって降りる
ネオン降る── ……降りやんだ のこったくらさが ほんとうのくろ じっとしていると 目がなれて くらやみが 部屋のかたちを返してくる
ぬばたまの──
れいぞうこの うなりがやんで みみのおくで しずけさが鳴る げんかんの灯を つけておく しろいいきと くろいかみと 霜のかんむり 明けがたのまえ
あらたまの──
(silence)
Suno設定 ── A 50/75 ・ B 50/72 ・ C 45/75 ・ D 60/65
Track 05 — 夜の三部 ・ 五
Aratama no
導く語 年・月日
あらたまの年の緒長く逢はざれども異しき心を我が思はなくに
♪ Audio
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あらたまの──
(……とし)
くれてゆく 十二月のまち スマホがふいに さしだしてくる 「いちねんまえの きょうのしゃしん」 おなじわたしが わらっている
あらたまは みがかれるまえの いしのなだと よんだひとがいる ことしもまた けずられながら ひかりはじめた かどもある
まだ変わらないで まだ変わらないで
(こころにだけ たのんでいる)
あらたまの──
としのを ながく あわざれども けしきこころを わがおもわなくに ながれてゆくと おもったとしは いっぽんの ひものかたちをしてた
午前零時の すこしてまえ とおくの寺で かねが鳴りだす ふるいとしと あたらしいとしが かねのあいだで となりあう
まだ変わらないで まだ
あらたまの──
よぞらにういたままの かんむりに やっと あてなを 書いている らいねんのわたしへ おくる かわらぬこころ どうふうして
ネオン降る──まちに ゆきがまざる つくったことばも ひとつ 年をとる いみのかわが すこしずつ剥がれて おとだけが のこってゆくのだろう
あらたまの──
かねが ひゃくはちを かぞえおわる あたらしいとしの さいしょのいきは まだ だれのものでもない しろさ としのをに ことしのむすびめを ひとつ むすんでおく
たまきはる──
(silence)
Suno設定 ── A 55/75 ・ B 50/72 ・ C 55/72 ・ D 60/65
Track 06 — 夜の三部 ・ 六 ── 夜明け
Tamakiharu
導く語 命
たまきはる命は知らず松が枝を結ぶ心は長くとぞ思ふ
♪ Audio
音源未設定 ── ページ末尾の AUDIO_CONFIG に URL を貼るとタブが点灯します
たまきはる──
(……いのち)
うすあかりの カーテンのした ねむるきみの 手くびにふれる とく とく と ちいさなおとが とまらないおとが つづいている
いのちのことを 玉のおと よんだひとたちが いたという ちいさなたまを つらぬくいとが きれるまでの あいだのこと
まだ切れないで まだ切れないで
(いとにだけ たのんでいる)
たまきはる──
いのちはしらず まつがえを むすぶこころは ながくとぞおもう しらないままで むすんだひとの むすびめだけが のこっている
はつもうでの えだのさきに むすばれたままの おみくじたち ほどきにもどる ひとはいない ねがいのかたちで こおっている
もう明けていいよ もう
(よるに れいを いうように)
たまきはる──
いきのお、とも よんだらしい うたうたびに いとはのびて ちはやぶるから ここまでずっと いっぽんの いきで つながってた
ちはやぶる── かみのたま ひさかたの── ひかりのたま あかねさす── ふりかえされたたま ぬばたまの── よるのたま あらたまの── としのたま ネオン降る── みがかれるまえのたま ひとつずつ いとに とおしてゆく
たまきはる──
いとのはしに とめむすび ほどいたら たまが こぼれてしまう ほどくのは わたしのゆびじゃない 千年さきの しらないゆびへ むすんだままで わたしておく いきのつづくまで うたっておく
ちはやぶる──
Suno設定 ── A 60/70 ・ B 60/72 ・ C 55/72 ・ D 60/65
ちはやぶる──
(鈴、鳴りかけで切れる)
まくらことば ── 連作六曲 | ことばは ひとの口を わたってきた