Waka × Reiwa — Kakekotoba Cycle
六つの同音 ・ ひとめぐりの年 ── 全六曲
めぐりながら、すぎてゆく。
環をめぐりながら、半径は開いてゆく ── 針は戻らず、鐘のほうへ抜ける
掛詞は、偶然の同音を歌の定型に当てはめて、必然に変えてしまう装置である。風景とわが身が偶然に出会う──その事件の重みを、言葉の出会いに置き換える。そして私事は、季節の暦に登録される。
この連作は一年をめぐる。六つの同音が、六人の暮らしを暦に載せてゆく。めぐる、と、すぎる、が同じ時間に同時に課金されて、年は暮れ──そして呉れる。
Track 01 — はる ── 併走型
Nagame
風景の音 雨・連続
起きもせず寝もせで夜を明かしては春の物とてながめ暮らしつ
♪ Audio
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(雨。連続して、途切れない。楽器はまだない)
「ちょうぼう りょうこう」の ふだが ついて やちんが すこし たかかった へや まどの そとは きょうで みっかめ あめの ほかに なにも うつらない
おきても いない ねむっても いない ふとんの うえに すわったまま けさの よていを ひとつ けして 「かさを かえす」も あしたに おくる
まどの ほうを むいて いるだけで みている とは いえない けれど ほかに することも ないので──
「ちょうぼう りょうこう」の まどいっぱい ふるものだけを みて くらす はるの ものだと よほうが いうなら わたしの きょうも はるの ものになる
てんきアプリの かいせつらんに 「うのはなくたし」という なまえが ある はなを くたす あめに さえ はなの なまえが ついて ゆるされる
れんきゅうあけの カレンダーに よていは もう ひとつもない あめの せいに していいなら──
ながめの いい へやの まんなかで ながめだけが つづいている あめの せいか わたしの せいか きく ひとが いないので きまらない はるの ものとて ながめて くらす
おきもせず ねもせで よを あかして はるを ながめて くらした ひとが せんねんまえに いて おなじ いいわけを のこしていった 「はるの ものとて」── はるは いちども もんくを いわずに ことしも あめを ひきうけている
あめは いつか あがると して かわいた まどに もどってくるのは とおくの まちの 「ちょうぼう」か それとも ながめる くせの ほうか はるの ものとて ながめて くらす ながめだけが つづいている
(あめは まだ やまない)
よほうでは あしたも
Suno ── A rainy dream pop 42/75 ・ B lo-fi house 45/72 ・ C chamber folk 40/73 ・ D rain-glitch 55/65
Track 02 — なつ ── 謎解き型
Higurashi
風景の音 蜩・間欠
今来むといひて別れし朝よりおもひくらしの音をのみぞ泣く
♪ Audio
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(夕方の蜩、かなかなと。楽器はまだない)
ろくじすぎ ひかりが ななめになると きまって どこかで なきはじめる あさと ゆうぐれ ひの うすいとき だけを えらんで なく せみが いる
せんぷうきの くびが まわって むぎちゃの こおりが とけて ちいさい ゆうがたの ニュースの はじまるまえの なんでもない じかんの おと
まどを あけても かぜは なくて こえだけが すずしさの かわり きょうも いちにち おわってゆく──
ひぐらしが なく ひが くれてゆく あみどの あみめ ひとつずつ とおって テレビも つけない へやの なかまで かなかな かなかな こえが とどく
「またすぐ くるね」と いった あさの メッセージが いちばん うえの まま きどくの マークを なんども みては がめんを けして また つけている
おもえば けさから おとが していた まひるの いちばん あかるい じかんも みみの おくで ずっと──でも
ひぐらしは まひるには なかない まひるも ないていたのは わたし わかれた あさから おもって くらして おもいくらしを ひぐらしと きいた かなかな かなかな という かたちで ないて いいのだと おもっていた
「いますぐ いくよ」と いって わかれた ひとを あさから ひぐれまで ないて まった ひとが せんねんまえに いた そのひとの こえは かきのこされて なつの ゆうがたが くるたびに むしの こえに まざって もどってくる
ひぐらしが なく わたしも なく どちらの おとか もう わけられない なつの ゆうがたの きまりごとに わたしの なきごえも いれてもらう かなかな かなかな ひが くれて きょうの おもいくらしが おわる
(ひは くれた)
あした まひるに きこえたら それは ひぐらしじゃ ない
Suno ── A dusk ambient pop 45/73 ・ B 2-step 48/72 ・ C slowcore 42/73 ・ D 蜩ドローン 58/62
Track 03 — あき ── 併走型
Aki
風景の音 旅客機・周期
初雁のなきこそわたれ世の中の人の心のあきし憂ければ
♪ Audio
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(夕方の空、遠いジェット音がひとつ、うねって通過)
ごご みなみかぜに かわった ひは としんの そらに ルートが ひらく にふんおきに いっきずつ ひくく つらなって わたってゆく
つきぎめちゅうしゃじょうの いちばんおく くるまの きえた ながしかくに かれはが たまりはじめて いて かんりがいしゃの ふだが かわった
「空」の あかい じが ともって ここが あいたと まちに しらせる わたしは まだ だれにも いってないのに──
あきが きた と そらは いう にふんおきの ていこくで いう わたしの ほうへは ひとあし はやく なつの おわりに きていた あき
「くるまで しばらく とおくに いく」が さいごの れんらくの ままで ちずアプリの かれの アイコンは 「さいしゅうかくにん 9がつ4か」で とまった
きせつは こうへいで ようしゃが ない そらの よていひょうの とおりに つぎの かぜが ふきはじめる──
あきが きた と かぜは いう ゆうがたが まいにち はやくなる かれに きていた あきの ほうは いつから だったのか きけないままだ
はつかりの こえを そらに きいて ひとの こころの あきを しった ひとが せんねんまえに いた かりは この そらを もう とおらない つげる とりの いなくなった あきを ことばだけが はこんでくる
ちゅうしゃじょうの あかい 「空」の うえ おなじ かたちの そらが くれてゆく らいねんも あきは じかんどおりに くる かれの あきには じかんが ない とわれないまま としだけ めぐる きた ひも いえない あきの こと
(そらには なにも のこらない)
「空」だけ ともっている
Suno ── A autumn trip-hop 45/73 ・ B 2-step 48/72 ・ C indie folk 42/73 ・ D ドップラーのパッド化 58/62
Track 04 — ふゆ ── 同曲異詞
Matsu
場所 松戸 ── 「まつさと」のなまり説 | 風景の音 発車メロディとアナウンス | 一番=松、二番=待つ、旋律は同一
♪ Audio
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(駅前ロータリー。発車メロディが遠く、鳴っては止む)
ロータリーの まんなかに しょくじゅの ひくい かこいが あって えだの まがった まつが いっぽん かんばんよりも ふるくから ある
こうじの たびに かこいは のこり まちの ほうが つくりなおされる はっぱは とがった かたちの まま ふゆに なっても いろを かえない
えきの なまえにも おなじ じが いて ひとびとは まいにち くちに する いみを かんがえずに よべる ほど──
まつの ことなら ここで きけばいい かわらない ことの せんもんかに なんねんでも おなじ すがたで かえってくる ひとを むかえる がわに まつは たっている
かいさつの みえる はしらの よこ じかんを きめずに 「ついたら いく」と いわれた ほうは うごけない けいたいだけを なんども みる
はつしゃメロディが ながれて やんで おなじ ばしょで うごかずに つぎの でんしゃも そのつぎも かいさつは ひとを はきだしつづける
「いま どのへん」と うちかけて けす さいそくに みえたら いやだから きかずに いられる ほうで いたい──
まつの ことなら ここで きけばいい かわらない ことの せんもんかに なんねんでも おなじ すがたで かえってくる ひとを むかえる がわに まつは たっている
このまちの なは 「まつさと」の なまりだと いった ひとが むかしから いる まつの きの さとなのか ひとを まつ さとなのか きめられないまま せんねん ちずに のりつづけている きめなくて いいのだと ちめいが ゆるしてくれている
まつの ことなら ここで きけばいい かわらない ことの せんもんかに なんねんでも おなじ すがたで かえってくる ひとを むかえる がわに まつは たっている ──きょうも たっている わたしと おなじ がわに
(かいさつから ひとの なみ)
このなかに いても いなくても あしたも ここに たっている
Suno ── A winter folktronica 42/75 ・ B slow 2-step 45/72 | 同曲異詞は Extend+タグ強制→Cover の順で旋律を引き継ぐ
Track 05 — ふゆ ── 鋳造枠・併走型
Tsumoru
登録面 天気予報・変換候補 | 風景の音 みぞれ・不規則 ── 音のする雪は積もらず、積もるものは音を立てない
♪ Audio
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(みぞれが傘を叩く、不規則なタップ音)
よほうは ゆきの マークだけど 「つもらない みこみ」と そえてある かさに あたって おとに なるのは ゆきに なりきれない つぶたち
「つもるはなしが ある」と うって へんかんこうほは ひとつだけ ゆきの ときにも はなしの ときにも おなじ じが でて おなじ かお
ごねんぶんは かぞえれば ある なにから はなすか きめられない あるきながら ならべなおしても──
とうきょうの ゆきは つもらないまま はなしだけが つもっていた おとも たてずに しらないうちに ふかくなる ほうの ゆきの しかたで
きみの すむ まちは けさから さんじゅっセンチと ニュースが いった おなじ ふゆの おなじ そらでも つもる まちと つもらない まちが ある
とけずに のこる ものだけが あえなかった ひにちの したに しずむ いちばん ふるい そうは いちばん おく──
みせの ばしょまで かどを ひとつ つもった はなしの いちばん うえは きっと きょうの この みぞれの こと かるい ものから とりだしてゆく
ゆきの つもると はなしの つもるを おなじ ことばで いいはじめた ひとが どこかの ふゆに いたはずで そのうえに つかったひとが つもり そのまた うえに つもるうちに なまえは いちばん したの そうに しずんだ ことばも ふりつもる ものだった おとも たてずに しらないうちに
ひきどの まえで かさを たたむ みぞれの おとが ここで やむ ごねんぶんの いちばん うえの 「ゆき すごいね」から はじめよう そこの そうまで ほれるかは こんやの ながさ しだいだけど
(おとの しない ふりかたで)
はなしは いまも つもりつづけている
Suno ── A warm winter house 45/73 ・ B 2-step 48/72 ・ C neo-soul 42/73 ・ D みぞれ打楽器化 56/63
Track 06 — おおみそか ── 謎解き型・決算
Kure
掛詞 暮れ/呉れ ── 年は終わりながら、渡してゆく | 風景の音 話者自身の足音 | 五人の話者が点景として通り過ぎる
♪ Audio
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(冷えた舗道の足音、規則正しく。遠くに年の瀬のざわめき)
はれた ゆうがたに かさを もって あるいてゆく ひとと すれちがう かえすものは ことしの うちに── ふるい きまりが まだ あるいてる
こうえんの ベンチで めもとを おさえる ひとに ゆうひが あたっている ひえる きせつだから と おもって とおりすぎる それだけの こと
ひが みじかくて よじはんには まちが だいだいいろに なる きょうは いちねんの いちばん おわり──
ひが くれるのと おなじ はやさで としが くれてゆく ゆうがただ だれもが どこかへ いそいでいて わたしも どこかへ あるいている
ちゅうしゃじょうの あかい 「空」の まえで たちどまっている ひとが いた えきの ロータリー まつの よこには かいさつを みている ひとが いた
いざかやの ひきどが あいて 「ゆき すごかったね」と わらう こえ ふたりぶんの かさの しずくが のれんの したで ひかっていた
みんな なにかを もっていて なにかは そとから みえなくて きょうが おわれば ながれてゆく──
ひが くれるのと おなじ はやさで としが くれてゆく まちなかを しらない ひとの まま すれちがう いちども なまえを きかないまま
せんねんまえの としの くれにも まちを あるいた ひとが いて すれちがった かずは のこっていない うたに のこったのは いつの よも たちどまった ひとの ゆうがただけ とおりすぎる ものは かぞえられない
かどの てまえで あしを とめる まどの あかりが こちらを むいて わたしも だれかの まどの そとを とおりすぎていた ひとりだと しる すぎたと おもった いちねんが すれちがった かおの かずだけ めぐる ことしが くれて しまうまえに くれた かおを かぞえなおす
(ひとつめの かねが とどく)
ことしが くれて よが あけるまで あと ひゃくなな
Suno ── A twilight downtempo 46/73 ・ B 2-step 48/72 ・ C post-classical 44/73 ・ D 足音コンクレート 58/62
あと ひゃくなな
(鐘は、まだ百七つ残っている)
こよみ ── 連作六曲 | めぐりながら すぎてゆく