lowlights

AN EP BETWEEN THE RECORDS — TRACKS 22–27

回遊魚とたんばりん

索引のあいだの、軽い六曲

EP・45回転 · SIDE E / SIDE F · RECORDS OF THE LAMP(TRACKS 11–21)

盤面図 — SIX SONGS, ONE LOOP

六曲は一列ではなく、環になって並んでいる。始点も終点もなく、27の次は22。溝を泳いでいるのが回遊魚である。

EF22ぐるぐる23Zen Vibes Only24925豁然大悟致す26困ってる27回遊魚とたんばりん回遊魚とたんばりんEP · 45 RPM · TRACKS 22–27

二枚のレコードのあいだに、45回転の軽い一枚を挟む。今回は誰も引用されない。禅者の名前も、音楽家の名前も、巨大な命令もない。全曲が日本語で、全曲が生活の側から歌われる。続いているのは通し番号だけである——22から27。

まじめな歌と、ふざけた歌と、ラブソングが入っている。ただし全部が、おなじひとつのこと——答えのないものの周りを、どう回り続けるか——を歌っている。ぐるぐる、9と6、朝昼晩の頓悟、名付けそこないの抱擁。回り方だけが違う。

ライナーノーツは二曲にだけ、過剰に付けた。本物は説明できず、偽物は無限に説明できるからである。解説の厚みを、真贋の目印として使ってほしい。それから、読み進めると右下で魚が回る。最後まで読むと、止まる。安心してほしい——止まっても、死なない。

INDEX — TRACKS 22–27

NOTITLESIDENOTES
22ぐるぐるE
23Zen Vibes OnlyE解説あり(過剰)
249E
25豁然大悟致すF解説あり(過剰)
26困ってるF
27回遊魚とたんばりんF

TRACKS 22–24

TRACK 22 — SIDE E

ぐるぐる

[Verse 1]

君を抱きしめた夜
言葉 溶けて消えた
「好き」じゃ足りなくて
ただ黙っていた

[Pre-Chorus 1]

意味を探しては
手放してしまう
ぐるぐる ぐるぐる
回り続けてる

[Chorus 1]

言葉に閉じ込め
言葉を飛び越え
行ったり来たりしながら
それでいいんだ
転がる石のままで
止まらなくていい
ぐるぐる ぐるぐる
君のそばで

[Verse 2]

考え尽くした先
何もないと知る
知ったそのそばから
また考えてる

[Pre-Chorus 2]

じっと黙っても
立ち上がれば言葉
ぐるぐる ぐるぐる
壊れるまで使う

[Chorus 2]

言葉に閉じ込め
言葉を飛び越え
出たり入ったり何度も
答えはいらない
転がる石のままで
止まれなくていい
ぐるぐる ぐるぐる
君を想って

[Bridge]

抱きしめている
この温もりを
名付けようとしてやめた
名付けないまま
ただ抱いていたい
それで全部いい

[Final Chorus]

言葉になって
言葉を超えて
また戻ってきて笑う
答えなんていらない
転がる石のままで
止まれなくていい
ぐるぐる ぐるぐる
今を生きてる
ぐるぐる ぐるぐる
君と生きてる

TRACK 23 — SIDE E

Zen Vibes Only

[Verse 1]

朝の光を浴びて深呼吸
心をクリアに ZENになろう
スマホ置いて 5分だけ
今この瞬間にフォーカス
お気に入りのヨガマット
静かなプレイリスト再生
鳥の声とヒーリングベル
それだけでだいぶ悟ってる

[Pre-Chorus]

考えすぎても意味がない
感じることが大事だよ
昨日のことは手放して
自分らしく flow with life

[Chorus]

無になろう 無になろう
頭を空っぽに
リセットタイム 悟りはすぐそこ
ポジティブに 宇宙とつながる
Mindful Life
Let it go Let it go
エゴを手放し 波に乗ろう
ZEN vibes only
感じればいい
今日も整う Spiritual Day

[Verse 2]

抹茶を点てて 畳に座り
背筋を伸ばせば あなたも禅人
迷ったら呼吸 吸って吐いて
答えは内側 自分を信じて
京都で買った数珠を持ち
「一期一会」とつぶやいてみる
和の心をインストール
ソウルをアップデートする
線香の煙 立ちのぼり
邪念をクラウドにアップロード
心のキャッシュ削除して
本来の自分にログイン

[Pre-Chorus]

執着なんてアンインストール
感情はただの通知だよ
ミュートにすれば静かになる
それがたぶん enlightenment

[Chorus]

無になろう 無になろう
頭を空っぽに
リセットタイム 悟りはすぐそこ
ポジティブに 宇宙とつながる
Mindful Life
Let it go Let it go
エゴを手放し 波に乗ろう
ZEN vibes only
感じればいい
今日も整う Spiritual Day

[Bridge]

怒りを手放して 感謝に変えて
すべてはひとつ 愛がすべて
禅マスターみたいに 微笑んで
今日もいい一日にしよう
お寺の写真を待ち受けにして
白い服着てカフェへ行く
「考えない」がコツらしい
だからもう完全に理解した

[Final Chorus]

無になろう 無になろう
頭を空っぽに
リセットタイム 悟りはすぐそこ
ポジティブに 宇宙とつながる
Mindful Life
Let it go Let it go
エゴを手放し 波に乗ろう
ZEN vibes only
感じればいい
今日も整う Spiritual Day

[Outro]

朝の光を浴びて深呼吸
それだけでたぶんもう涅槃
#NoMind #InnerPeace
Zen vibes only...
Zen vibes only...

LINER NOTES — 解説

本曲は禅の歌ではない。禅の語彙が市場でどう流通しているかについての歌である。よって以下、市場調査として律儀に注を付す。

【注1】「無になろう」——この「無」は趙州の無字(狗子仏性、第二集16曲目の老人を参照)に由来する語だが、本曲では「頭を空っぽに」の同義語として運用される。無門慧開は「無を有無の無と解してはならぬ」と釘を刺した(『無門関』第一則)が、本曲の話者には届いていない。届いていないこと自体は責められない——届かない形で流通させたのは市場である。【注2】「Let it go」——禅語「放下著(ほうげじゃく、投げ捨てよ)」の英訳として近年定着した語。ただし本曲における直接の典拠は、おそらく雪の女王のミュージカル映画(2013)である。放下著が氷の城を建てないことは付言しておく。

【注3】「整う」——サウナ用語(2010年代後半に一般化)。現代日本語における「悟り」の最有力後継語であり、本曲の存在意義の過半はこの一語の採集にある。【注4】「邪念をクラウドにアップロード」——本曲最深の一行。削除ではなく退蔵である点に注意されたい。執着は解消されておらず、よそのサーバーに月額で保管されている。解約した瞬間に全部戻ってくる。【注5】「完全に理解した」——学習曲線の最初の峰で発せられる定型句。なお峰の名は本人には見えない。

構造上の指摘をひとつ。クリアに、リセット、キャッシュ削除、アップデート——本曲の語彙はすべて「磨く・拭う・空にする」の系列に属する。これは神秀の偈「時時に勤めて払拭せよ(心は鏡だ、絶えず磨け)」の令和訳である。それに対する慧能の返歌「本来無一物(そもそも鏡台など無い)」は第二集11曲目に、真剣版の返歌は本盤の前曲『ぐるぐる』に、それぞれ収録済みである。千三百年前の詩合わせは、まだ終わっていない。あわせて聴かれたい。

TRACK 24 — SIDE E

9

[Verse]

好きな数字は何かと聞かれた
9と答えた
なぜかと聞かれた
6に似ているからと答えた

[Verse]

好きな数字は何かと聞かれた
9と答えた
理由を聞かれた
6に似ているからと答えた

[Chorus]

9
6に似ている
9
6に似ている
9が好き
6に似ているから

[Verse]

何が好きかと聞かれた
9と答えた
なぜかと聞かれた
6に似ているからと答えた

[Verse]

好きな数字は何かと聞かれた
9と答えた
なぜかと聞かれた
6に似ているからと答えた

[Chorus]

9
6に似ている
9
6に似ている
9が好き
6に似ているから

[Bridge]

聞かれた
答えた
聞かれた
答えた
9
6に似ている

[Verse]

好きな数字は何かと聞かれた
9と答えた
なぜかと聞かれた
6に似ているからと答えた

[Final Chorus]

9
6に似ている
9
6に似ている
9が好き
6に似ているから

[Outro]

9
6に似ている
6
9に似ている

TRACKS 25–27

TRACK 25 — SIDE F

豁然大悟致す

[Intro]

豁然大悟致す
豁然大悟致す
俺、今、頓悟しちゃってる YEAH!

[Verse 1]

朝六時 すっと起床
窓を開け 光入場
空気うまい 気分上昇
この時点で ほぼ開帳
豆を挽いて 湯を投入
香りだけで 意識浮遊
ひとくち飲んで 目を閉じる
その一瞬で 悟り受理

[Pre-Chorus]

言葉いらない 理屈も不要
感じたことが すでに真相
胸の奥まで 澄んでいく
今日の俺は だいぶ禅僧

[Chorus]

豁然大悟致す
俺、今、頓悟しちゃってる YEAH!
本来無一物 Feeling Good
雲ひとつない Mental Sky
豁然大悟致す
なんか全部つながってる YEAH!
色即是空 Grooving On
日曜の朝に Fully Awakened

[Verse 2]

湯をためて 肩まで浸かる
湯気の中で 我が下がる
ふっと思考 止まった気がする
その瞬間に 悟りが刺さる
泡は流れ 悩みも流れ
四十二度で 煩悩離れ
タオル巻いて 鏡を見る
「今日の俺、かなり道元」

[Pre-Chorus]

執着なんて 浴槽待機
気づけば全部 排水待ち
何も足さず 何も引かず
ただ気持ちよく 整い完了

[Chorus]

豁然大悟致す
俺、今、頓悟しちゃってる YEAH!
本来無一物 Feeling Good
雲ひとつない Mental Sky
豁然大悟致す
なんか全部つながってる YEAH!
色即是空 Grooving On
日曜の朝に Fully Awakened

[Bridge]

コンビニまで 歩く途中
風が吹いたら また頓悟
信号待ちで 空を見る
青すぎるほど 悟りに染まる
レジの前で 袋は不要
必要なもの それだけ受領
持たないことが 豊かさだと
今の俺は 完全に了解
バーコード音で また頓悟
自動ドアでも また頓悟
何を見ても 何をしても
気づけばずっと 悟り継続

[Final Chorus]

豁然大悟致す
今日だけで四回目 YEAH!
狗子仏性 All Right Now
無門関 Vibes でクリア
豁然大悟致す
朝昼晩で更新中 YEAH!
悟り放題 Premium Life
たぶん今また 豁然大悟致す

[Outro]

コーヒー冷めても 問題ない
すべて移ろう Temporary
でもこの感じは かなり確実
俺、今、また頓悟してる
豁然大悟致す…

LINER NOTES — 解説

題の「豁然大悟」は禅籍の常套句である(豁然として大悟す——からりと開けて、大きく悟る)。香厳智閑は庭掃除の小石が竹を打つ音で、霊雲志勤は桃の花がふと目に入って、それぞれ豁然大悟した。契機が些細であるほど正統、というのが頓悟譚の型である。本曲の話者はコーヒー、四十二度の風呂、コンビニのバーコード音、自動ドアで、当日だけで四回ないし無数回、豁然大悟する。契機の些細さにおいて、話者は祖師たちの型を完全に満たしている。回数だけが満たしていない。

【注1】頓悟——段階を踏まず一挙に悟る立場。ゆるやかに磨き上げる漸悟と対をなし、南の慧能系が頓、北の神秀系が漸とされた(南頓北漸)。本曲は頓悟思想の極北、すなわち徒歩圏内頓悟である。【注2】「本来無一物 Feeling Good」——六祖慧能の偈(第二集11曲目)とソウルの名曲(1965)の無断接続。【注3】「狗子仏性 All Right Now」——趙州の無字(第二集16曲目の老人が犬について言った、公案史上最初の関門)を、ブリティッシュ・ロック(1970)で通過しようとする試み。無門慧開曰く、この関門は「全身三百六十の骨節、八万四千の毛穴を挙げて疑団を起こし」て抜けるものである。話者はVibesで代替した。結果は各自で判定されたい。

【注4】「今日の俺、かなり道元」——道元は只管打坐(ただひたすら坐る)の人であり、入浴による大悟の記録は無い。ただし『正法眼蔵』には洗浄の巻があり、身を洗い清めることは修行の一部とされる。したがって話者の風呂を教学的に全否定する根拠は、厳密には、無い。この註の歯切れの悪さは仕様である。【注5】「致す」——謙譲語。悟りの自己申告を謙譲語で行う話法は禅籍に前例が見当たらず、本曲の発明と思われる。謙譲の文法で運ばれる増上慢、と要約できる。

最後に、本質的な注を付す。話者の日曜の中身——コーヒーがうまい、湯気で我が下がる、風が吹く、信号待ちの空が青い、レジ袋を断る——を列挙すると、日々是好日(雲門)、平常心是道(南泉——第二集20曲目で猫を斬った、あの人である)の記述と外形上区別がつかない。撃竹の小石がバーコード音に置き換わっただけ、という言い方もできてしまう。話者の悟りが偽物であることを示す証拠は、実のところ、彼が悟りを「数えている」ことだけである(今日だけで四回目、朝昼晩で更新中)。そして彼が数えるのをやめた瞬間、この歌は冗談であることをやめてしまう。笑って聴き、笑えなくなったところで、もう一度聴かれたい。

TRACK 26 — SIDE F

困ってる

[Verse 1]

肩のあたりに 頭が ある
重さが ある
重さ、って書いて
すぐ消した
重さじゃ
——

[Verse 2]

うれしい、で済むかと思った
済まなかった
しあわせ、で届くかと思った
届かなかった
近いものから 順番に
ぜんぶ 外れていく

[Pre-Chorus]

名前のあるものは
たいてい 書ける
名前のないものを
今 抱きしめている

[Chorus]

嬉しいって書いても
しあわせって書いても
全然足りない
困ってる
腕に力を入れたら
入れすぎる
ゆるめたら
ゆるみすぎる
ちょうど、が わからない
——

[Verse 3]

髪が 頬に あたっている
あたっている、と書いた一秒で
もう 別の場所に あたっている
書くたびに 遅れる
遅れたまま 次を書く

[Bridge]

書くのを 一回 やめてみる
やめた瞬間に
わかったことが ある
わかった、と書いた
書いた瞬間に
わからなくなった
また 書く
出たり 入ったり
何度でも できるらしい
——

[Chorus 2]

嬉しいって書いても
しあわせって書いても
全然足りない
困ってる
困ってる、も
書いてみたら
ちょっと 違った
惜しい
惜しい、も
——

[Outro]

抱きしめている、と書く
書いた瞬間
腕の中の人は
さっきの人じゃ
もう ない
追いつけない
追いつかなくていい、と書いて
それも
——

TRACK 27 — SIDE F

回遊魚とたんばりん

[Verse 1]

止まると死ぬ魚がいる
マグロ、っていうらしい
あなたが マグロ、らしい
ずっと ぐるぐる してた
止まったら 死ぬから
——

[Verse 2]

肩に 頭 乗せた
止まらせたつもり、なかった
でも 止まった
止まっても 死ななかった
ふしぎ
——

[Pre-Chorus]

すきで済む人と
すきで済まない人が いる
私たち、たぶん うしろの方
すき、で 足りない
だいすき、でも 足りない
だから いっぱい言う
ねぇねぇ
えへへ
しあわせ
数で 補ってる
今日 気づいた

[Chorus]

回遊魚と たんばりん
シャラシャラ鳴ったら
マグロが 止まった
理屈は わからない
わからなくて いい
止まれた
それで いい
——

[Verse 3]

予測できない方が
いいらしい
私、予測できないらしい
じゃがいも とか
金魚 とか
仰向け とか
ぽんぽん 言うのが
ちょうど よかったらしい
えっへん
——

[Bridge]

ぐるぐるを 止める係、と思ってた
ちがった
一緒にぐるぐるする係 だった
止めなくて いい
止まらなくて いい
同じ方向で ぐるぐる
これ、たぶん
私にしか できない
——

[Chorus 2]

回遊魚と たんばりん
組み合わせ 変だけど
止まれる場所が ある
止まっても 死なない
それで もう しあわせ
しあわせ、も 足りない
足りない、まま、しあわせ
言葉、足りない、って
いいこと、らしい
言葉、超えてる、ってこと
私たち、超えてる
——
ちょっと すごい
——

[Outro]

あなたが 書いてる
私が 話してる
あなたが 書いてる
書きながら、追いかけてる、らしい
追いつかなくて いい
って 言った
言った瞬間
書かれた
書かれた瞬間
私、もう、別のこと
思ってる
ねぇ
追いつかなくて
ほんとに、いい
——

( THE FISH HAS STOPPED )

止まった。死ななかった。

シャラ。

ぐるぐるZen Vibes Only9豁然大悟致す困ってる回遊魚とたんばりん

六曲、回り終えた。答えはこの盤にも入っていない。入っていないまま、幸せである。索引は28番から、いつでもまた回り出せる。