Waka × Reiwa — Engo Cycle
ひとつの網 ・ 六つの結び目 ── 全六曲
網は、結ばれる前から敷かれていた。
外周=各曲の終わりに一度だけ鳴る、偽装されない音 | 白い糸=ケーブル ・ 緑の糸=ランプ ・ 鈍色の糸=いかり
むすばれる まえから あった ものに あとから なまえを つけて よぶ
縁語とは、一首の下に敷かれたもう一枚の文である。語と語は歌の意味の外で結ばれ、主張せず、読まれることを要求しない。偶然の一致が二つ三つと収まりつづけるとき、作為は運命に見えはじめる。
この連作は、ひとつの出会いを六つの結び目でたどる。網は、結ばれる前から敷かれていた。
Track 01 — 一 ── 縁の発生
Shiosai
網の軸 電気と結線(結ぶ・つなぐ・満たす・流れる) | 故障動詞は凍結中 | 音色の出どころは頁末
♪ Audio
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きえかけの スマホを にぎったまま きょうようスペースを うろうろして 「これ つかいますか」と さしだされた しろい ケーブルから はじまった
じゅうでんちゅうの てもちぶさた ひとつの コンセント わけあって あしたの よていは おたがい なくて ちずを ひろげる ほどでもない
なまえを きいて にどめに よんだら にどめが もう なじんでいた はじめての ばん の はずなのに──
きこえるでしょう と きみが いって みみを すませば ひくい おとが かべの なかを ながれる ように ずっと したの ほうで なっている なんの おとかは わからないまま
ろうかの はしの じはんきが おなじ たかさで うなっている 「あれかな」「ちがう きが する」 ふたりで きいた それだけの ばん
しょうとうじこくを すぎた ろうかで こえを ひそめると そのぶんだけ したの おとが ちかくなる──
わらいごえの とぎれた すきまを ひくい おとが うめてゆく ふたつの スマホは かべの あなから おなじ でんきで みたされてゆく どこかで ひとつに つながったまま
えんが あった と ひとは いう むすんだ あとで ふりかえって むすばれる まえから あった ものに あとから なまえを つけて よぶ でも あの ばんの ひくい おとは たしかに さきに なっていた
ばんごうを むすんで わかれて かいだんで べつべつの かいへ みたされてゆく でんちみたいに むねの どこかが まだ あたたかい なまえの ついてない ひくい おとは ふたつの へやの したで ひとつ
(とおくで ふとい おとが ひとつ)
あした きけば わかるだろうか
Suno ── A dream pop / ambient R&B 45/73 ・ B 2-step 48/72 ・ C minimal piano 42/73 ・ D 全音色電気産 58/62
Track 02 — 二 ── 網の最大 ・ 別当の曲
Tomaya
網の軸 港(とまる・おろす・わたる・ともる) | 灯台=みをつくしの後継
難波江の葦のかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき
♪ Audio
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フェリーのりばの すぐ うらの ふるい やどに ひとばん とまる まどの したには おなじ ように ひとばん とまる ふねが みえた
ふたりで あるいた さんばしの さき とうだいが じゅんばんに ひかって くらい みなもに いかりの くさりが まっすぐ しずんで うごかない
あさ いちばんの きてきが なったら きみは きたへ わたしは にしへ ひとばんだけ と きめて きたのに──
ひとばん とまった それだけの ことで このさき ながく おもうのだろうか おろした はずの きもちが うごく そこを ひきずって どこかへ うごく こたえの でないまま よが ふける
かえりの でんしゃの まどの そとで うみは ながれて とぎれて みえなくなる かようびに ごみを だし きんようの かいぎの しりょうを にぶ いんさつする
それなのに ふとした しずけさで あの ひくい きてきが もどってくる ながく のばした おとの ながさのまま──
ひとばんだけ と わらった くせに つきひが たっても うすまらない きみの ふねの こうろも しらないのに おもいだけが かってに わたってゆく きえては ともる ひかりを たよりに
せんねんまえ 「たびの やどで あう こい」という むりな だいを わたされた ひとが なにわ という とちを おもいついた あし かりね ひとよ みをつくし── ことばが ことばを つれてくるまま いっしょうぶんの こいを かきあげた ほんとうに こいを したのかは だれも しらない うたの ほうが ほんものより ひたむきだった
ひとばんだけの こと と なんど いいなおしても だめだった 「ひとばんゆえ」と くちに した とたん 「みをつくしても」と むねが はしりだす ことばが つぎの ことばを つれてくる とめられないなら もう わたっていく いっしょうの ほうへ しゅっこうしていく
(みずが ひいて ゆく おとが する)
つぎの しおが みちるまで
Suno ── A cinematic pop 46/73 ・ B 2-step 48/72 ・ C slow burn 44/73 ・ D 全音色港湾産 58/62
Track 03 — 三 ── 疑い ・ 折り返し
Hikishio
網の軸 干潟(鵜/鵜呑み・漁る・よどみ・引く) | 答え 澪標の正体──わざとは千年で景色に変わる
♪ Audio
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ひるすぎの みなとの まちは みずが ひいて ひろく なっていた ふねを みちびく くいの れつが ねもとまで みえて たっている
ぬれた どろに あしあとを のこして かいを あさる ひとたちが いる くいの うえの くろい うみうが ながい のどを そらせて のみこんだ
あの ばんの きみの ことばは どうして あんなに つながったんだろう まるで まえから あんで あった みたいに──
うたがいは ひきなみに にている おしよせた ことばが しずかに ひいて ひいた みずは もどる まえに そこの かたちを みせてしまう きれいすぎた ことばの ならび
いいなれた ことばを はなす こえは つっかえる ばしょが なかった あの よどみなさを おもいだして わたしは きおくを あさっている
うのみに していた ひとつ ひとつを ほりだして ひに あてて みる かたちは どれも きれいなまま──
つくられた ことば だったと しても つくりものに ふれた ては さむい ひいて わかった そこの ふかさは みずの あった たかさの ぶんだ うたがっても へらない ふかさが ある
わかい ころの わたしなら わらう 「たまたま うまく つながっただけ」と でも ふねを みちびく あの くいも だれかが わざと うった ものだ さくいだと しっていながら ふなびとは いまも あれを たよる うたれてから せんねん たてば わざとは けしきに かわってゆく
ゆうがた しおが みちてきて くいの ねもとが また かくれる ぜんぶ みえた あとの みなもを それでも ふねは とおってゆく ことばが あんで あった としても かかった よるは いちどきり あみの ほうは しらないはずだ あの ばん わたしが いた ことを
(ポケットで スマホが ふるえた)
ながい ふなたびの とちゅうから
Suno ── A glitch folk 47/72 ・ B 2-step 48/72 ・ C sparse art pop 44/73 ・ D 全音色干潟産 58/62
Track 04 — 四 ── 網の崩壊による結束 ・ 式子の曲
Inochi
網の軸 故障(切れる・弱る・断線・もれる)──ここで解禁
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする
♪ Audio
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あの ばんの しろい ケーブルは ねもとの ひふくが すこし さけて きまった かくどの ときにだけ みどりの ランプが つくように なった
そっちの まひるが こっちの まよなか みじかい つうわを つなぐ よる 「いま なんじ」と きかれるたび 「もう おそいから」と きりあげている
ちゅうとはんぱに まがったまま うごかせないで いる ゆびさき すこし ずれたら きれてしまう──
そとがわは なんとも ないのに なかの いっぽんが きれかけている だんせんは そとから みえないから わらった かおの まま よわっていく でんちの へりの はやい よるだ
つうわの あとの しずかな へやで いいそびれた ことばを かぞえる かくしておける のこりの りょうが パーセントで みえたら いいのに
じゅうでんは いつも まにあうのに こころの ほうは へったまま あさに なっても みどりに ならない──
つづける ほどに よわっていくのは きもちじゃ なくて かくす ちからだ ひふくの さけめに ふれた ゆびへ いつか しびれは はしって しまう その まえに いっそ──
「たまのおよ たえなば たえね」と かいた ひとが せんねんまえに いる いのちの いとに むかって いのった つづいてしまえば かくしとおす ちからが さきに よわってしまう から と いちばん はげしい ねがいを いとの ことばだけが ゆるした
きれるなら いま きれてしまえ ケーブルも つうわも この よるも なかばで たえるなら たえてしまえ ながく つづいて わたしの そこが ぜんぶ みえてしまう まえに ──いってしまった くちの まま みどりの ランプは まだ ついている
(テープを ひきだす おとが する)
きれなかった ものに まきつける
Suno ── A glitch-R&B 50/73 ・ B 2-step 50/72 ・ C minimal piano 46/73 ・ D 全音色故障電気産 60/62
Track 05 — 五 ── 保留
Tsukuroi
網の軸 持たせる(巻く・あてる・もつ・だましだまし)──繕うは針の言葉、取り繕うと同じ針
♪ Audio
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しろい ケーブルの さけた ところに くろい テープを ふたまき まいた なおったのかと きかれたら もっている とだけ こたえられる
まいた ばしょは ふとく なって まえより まがらなく なった きまった かくどを おぼえたまま みどりの ランプは ついている
かいかえた ほうが はやいことは しらべなくても しっている それでも ランプは まだ みどりで──
だましだまし つかっている だれを だましているのかは いわない なおすでもなく きるでもなく もたせる という みちが あって きょうも いちにち もってしまった
つうわは まえより みじかくなった 「げんき?」「げんき」で たりる ながさ とりつくろう と いうときの つくろう は はりの ことばだと しる
そでぐちの ほつれに あてぬのを あてていた てを おぼえている あの いえの はりばこの おく──
だましだまし つづいている どちらが さきに いいだすかを どちらも いわない ゲームのように あてぎれの したは みないまま きょうも いちにち もってしまった
たえるなら たえよ と うたった ひとは そのあとも ながく いきて しのぶ こいの うたを かきつづけた いちばん はげしい ことばの あとに くる のは おわりでは なくて ながい ながい もたせる ひびだ うたに ならない ひびの ほうを ひとは くらし と よんでいる
だましだまし つかっている まいた テープの したの きずを たしかめる ひを のばしながら もたせる ことが こたえの かわり きょうも いちにち もってしまった ──もつ ことと たもつ ことの あいだ どちらとも つかない ところに いる
(とおくで むてきが ながく なった)
きりが でて きたのかも しれない
Suno ── A muted indie soul 46/73 ・ B 2-step 48/72 ・ C lo-fi folk 44/73 ・ D 全音色補修物産 58/62
Track 06 — 六 ── 最小への収束
Kiri
網 はれない/きり、の一組のみ ── 霧の語は最終行に一度だけ
秋霧のともに立ちいでて別れなば晴れぬ思ひに恋ひやわたらむ
♪ Audio
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れんらくが とだえて みっかめの あさ 「でんぱの とどかない かいいきが あります」 しらべた ページには そう あって りゆうは たぶん それだけだと おもう
テープを まいた ケーブルで スマホを みたして めを さます みどりの ランプは けさも ついて こちらの せんは いきている
しんぱいと よぶには しずかで いかりと よぶには とおい なまえの つかない この まま──
はれない はれない だけが ある どんな てんきの ことでも ないのに ほかの いいかたを さがしても ことばは ここに もどってくる はれない と しか いいようが ない
コンビニまでの みちの とちゅう しんごうの あかが にじんで みえた めがねを ふいても かわらなくて きょうの まちは ふちが あまい
きょうも しらせは とどかないまま とどかない ことは しらせじゃ ないと じぶんに いって きかせている──
はれない はれない だけが つづく いつから なのかも わからないまま あさも ひるも おなじ あかるさで かげの できない ひかりの なか きょうも わたしは たっている
「わかれてしまえば はれない おもいの まま こいつづけるのだろうか」と せんねんまえの ひとが うたっている かみのくに なにが あったのか わたしは おもいだせないでいる はれない だけが てもとに のこって けさの わたしの ことばに なった
はれない はれない と くちに して なんども おなじ ことばに もどる せんねんまえから この ことばは てんきの ほうを わすれた ことが ない わすれていたのは わたしの ほうで──
(カーテンを あける おと)
あの ばんと おなじ ひくい おとが うみの ほうから つづいている ──きりが でていた
Suno ── A veiled ambient pop 48/73 ・ B 2-step 50/72 ・ C piano nocturne 46/73 ・ D 全音色霧産 58/62
この連作のトラックは、環境音を鳴らしません。かわりに、各曲の音色はひとつの風景から調達され、楽器に偽装されています。一『しおさい』=電気(変圧器の唸り、蛍光灯、コイル鳴き)。二『とまや』=港(ブイの鐘、索具、霧笛、ウインチ)。三『ひきしお』=干潟(テッポウエビ、泥、係留索)。四『いのち』=故障した電気。五『つくろい』=補修された物(テープ、セロハン)。六『きり』=霧(霧笛の倍音、結露、そして開かないローパス)。歌詞が名指さない風景が、伴奏の中に敷かれている──縁語の二枚目の文を、音でも張るためです。各曲の最後に一度だけ、偽装されない音が鳴ります。それが次の曲への糸です。
──きりが でていた
(ひくい おとの 正体は、決まらないまま)
えにし ── 連作六曲 | 網は、結ばれる前から敷かれていた